グールドのバッハ「平均律クラヴィーア曲集第2巻Vol.3」(1971.1録音)ほかを聴いて思ふ

キース・ムーンもジョン・エントウィッスルもいなくなり、結局ザ・フーのライヴに触れる機会は永遠に失われた。せめてジョンが生きていればと、今さらながら思う。
1989年の再結成ライヴで、ロジャー・ダルトリーは咆える。
ロック・オペラ”Tommy”の完全再現と、言わずと知れたザ・フーの名曲群の波状攻撃。痺れる。

“Love, Reign O’er Me”の崇高な歌詞に込められる魔法。ロジャーの歌唱は冴えに冴え、僕たちを虜にする。

Only love
Can make it rain
The way the beach is kissed by the sea
Only love
Can make it rain
Like the sweat of lovers
Laying in the fields

雨は水である。水はあらゆる存在形態の源であり、変幻自在。雨とはすなわち愛と同義なのである。そしてまた、”Join Together”でロジャーは次のように歌う。

Won’t you join together
Ev’rybody join together
Come on and join together with the band
We need to join together
Won’t you join together
Ev’rybody join together with the band

誰もが一緒になりたいと願う。しかし、表層ではだめだ。各々が中に入らねば。
さらに、ロジャーは”You Better You Bet”で「覚悟を持て」と叫ぶ。

When I say I love you, you say you better
You better you better you bet
When I say I need you, you say you better
You better you better you bet
You better bet your life
Or love will cut you like a knife

愛と憎悪は表裏一体だと。しかしそれは、人間の我欲の世界でだけの話。神々の世においてはすべてが愛であり、許しなのである。一度でいいからザ・フーのライヴを観たかった。

・The Who:Join Together (1990)

Personnel
Roger Daltrey (lead vocals, tambourine, harmonica, acoustic guitar, rhythm guitar)
Pete Townshend (lead guitar, acoustic guitar, rhythm guitar, lead and backing vocals)
John Entwistle (bass, backing and lead vocals)
Simon Phillips (drums)
Steve “Boltz” Bolton (rhythm and lead guitar)
John Bundrick (keyboards)
Billy Nicholls (backing vocals, musical director)
Cleveland Watkiss (backing vocals)
Chyna Gordon (backing vocals)
Jody Linscott (percussion)
Simon Clarke (brass)
Simon Gardner (brass)
Roddy Lorimer (brass)
Tim Saunders (brass)
Neil Sidwell (brass)

サイモン・フィリップスのドラムスは、キース・ムーンに比較して軽めの印象だが、しかし、ザ・フーの楽曲は緊密なリズム隊なくして語れるものでなく、その意味ではせめてジョン・エントウィッスルが気を吐き、情熱的なベースを「静かに」聴かせてくれるところが素晴らしい。披露されたすべての作品が美しく、そしてまた悲しい。

あわせてグレン・グールドはバッハの「平均律クラヴィーア曲集第2巻」を聴いた。涙なくしては聴けぬ美しさ。

J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第2巻Vol.3
・前奏曲とフーガ第17番変イ長調BWV886(1971.1.11&31録音)
・前奏曲とフーガ第18番嬰ト短調BWV887(1971.1.11&31録音)
・前奏曲とフーガ第19番イ長調BWV888(1971.1.10&24録音)
・前奏曲とフーガ第20番イ短調BWV889(1971.1.10&11録音)
・前奏曲とフーガ第21番変ロ長調BWV890(1971.1.31録音)
・前奏曲とフーガ第22番変ロ短調BWV891(1971.1.31録音)
・前奏曲とフーガ第23番ロ長調BWV892(1971.1.24録音)
・前奏曲とフーガ第24番ロ短調BWV893(1971.1.24&31録音)
グレン・グールド(ピアノ)

バッハの堅牢たる枠組みの中で自由に飛翔するグールドのピアノは、まるで水の如し。前奏曲と、そしてフーガが一体となり、敬虔なる愛が表現される。例えば、虚ろな表情を醸すイ短調の前奏曲はグレン・グールドの本懐。あるいはロ短調の疾走する前奏曲の内なる愉悦と確固たる歩みを示し、跳ね歌うフーガの内なる悲しみ。バッハもグールドも、ザ・フー(ピート・タウンゼント)同様「仲間になろう、みんなの力を結集しよう」と謳うようだ。

 

ブログ・ランキングに参加しています。下のバナーを1クリック応援よろしくお願いいたします。


音楽(全般) ブログランキングへ

にほんブログ村 クラシックブログへ
にほんブログ村


コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む