キーシン&ジュリーニ指揮ウィーン・フィルのシューマン協奏曲(1992.5Live)を聴いて思ふ

ロベルト・シューマンの作品の中でも1,2を争う名曲だと思う。
しかし、僕にとっては残念ながら「どうでもよい」曲のひとつ(だった)。実演でも録音でも数多の演奏を耳にしても、美しいとは思ってもどういうわけか心に響かないのである。
果たして僕を虜にするほどの名演奏に出逢えていないということなのかどうなのか、それはわからない。たぶん・・・、シューマンの心自体が僕には「わからない」のだと思う。

1841年のピアノと管弦楽のための幻想曲は、紆余曲折、推敲が重ねられ、1845年、協奏曲イ短調として完成をみる。シューマンらしい暗い情熱が幾分引っ込み、どちらかというと明朗で快活、流麗な旋律が特長的な傑作で、クララによって初演された時は相当な喝采をもって迎えられたのではないかと思われる。それほどの浪漫的華麗さを秘めた曲でありながら、当時のロベルトは体調思わしくなく、幻聴や発作に悩まされていたのだから面白い。

弱冠二十歳のエフゲニー・キーシンが、ジュリーニ指揮ウィーン・フィルをバックに録音した演奏は、何より管弦楽による第1楽章冒頭和音の一撃が、すんなりと流れない、少々のためのある、いかにもジュリーニらしいもので、実に素晴らしい。この頃の彼の演奏は概して「愚鈍」というくらいに遅く重いものだったが、ここではどちらかというとピアニストの呼吸に合わせることで、とてもバランスの良い音楽を現出させる。キーシンのピアノは見事にピュアで、相変わらず技巧的にも完璧。
そして、第2楽章アンダンテ・グラツィオーソに溢れる愛の表現。湧き立つ柔和な優しさが病を抱えるロベルトの内なる大いなる愛であり、クララへの想いが強烈に反映されていることを悟る。キーシンの無心のピアノが美しい。さらには、終楽章アレグロ・ヴィヴァーチェのほど良いテンポと音楽の躍動に、これぞ僕が求めていた演奏ではないのかと膝を打ったくらい。

・シューマン:ピアノ協奏曲イ短調作品54
エフゲニー・キーシン(ピアノ)
カルロ・マリア・ジュリーニ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1992.5Live)
・シューマン:アラベスク作品18
・シューベルト/リスト編曲:ます
・シューベルト/リスト編曲:魔王
・グリーグ:「民族生活の情景」~謝肉祭より作品19-3
・グリーグ:君を愛す作品41-3
・リスト:ウィーンの夜会(ワルツ・カプリス第6番)S.427-6(初版)
エフゲニー・キーシン(ピアノ)(1992.10録音)

ピアノ協奏曲の初演は1846年元旦にライプツィヒ・ゲヴァントハウスで行われたが、同年2月8日に第4子で長男のエーミルが誕生をしていることを考えると、そのときクララは間もなく臨月に入ろうとする時期であったことになる。大きなお腹を抱えての独奏に聴衆は何を感じ、また思ったのだろう。

ところで、付録の諸曲での、キーシンの演奏がこれまた巧い。
シューマンの「アラベスク」の筆舌に尽くし難い感傷に僕は跪く。また、リストのアレンジによるシューベルト歌曲の華麗なヴィルトゥオジティに舌を巻く。

 

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