フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルの「トリスタン」前奏曲と愛の死(1938録音)ほかを聴いて思ふ

「アンネの日記」、1944年2月3日木曜日。

A―「いいかね、わたしたちは実際にそのすべてを体験してきてるんだよ。最初はドイツで、いまはここで。それにソ連でだって、いまなにが起こってると思う?」
J―「ユダヤ人問題をこれに含めないでください。ソ連でなにが起きてるか、はっきり知ってるものはいないはずですよ。イギリスだって、ソ連だって、プロパガンダのためには、ぜったい事実を誇張してるにちがいないんだ。ドイツと同様にね。
アンネ・フランク/深町眞理子訳「アンネの日記」(増補新訂版)(文春文庫)P315-316

イデオロギーとイデオロギーのぶつかり合い。この世界はすべてが駆け引きの中にあったし、今でもある。互いが互いを化かし合うことほど無益なものはないと思うのだが。

かねてから「弾圧も、警察支配も、テロルもない新しい社会をつくる」と大衆に約束していたレーニンは、帝政ロシア時代の恐怖の秘密警察「オフラナ」を解体したが、いまや自らこう言い放って恥じなかった。「一番大切なことは、至る所に秘密警察を作ることである。秘密組織なくして大衆行動を云々することは、駄弁にすぎないのである」。また「テロルを活用し、摘発した反革命分子を即座に射殺しなければ、われわれは一切成し遂げられないのだ」とも公言した。
広瀬隆著「ロシア革命史入門」(インターナショナル新書)P162-163

ひとたび権力を握ると、それを失うことに人は恐怖を覚える。
何かを得れば何かを失う、何かを失えば何かを得るのは、いわば宇宙の法則。
人間の愚かさは、やはり漠とした不安に起因するようだ。

ソ連で何が起こっていたのかは、当時の人々は知る由もない。しかしそこでは、ユダヤ人の大量虐殺や、共産党一党独裁を維持するための粛清が、その字のごとく粛々と行われていたのである。

大戦前夜の不穏な空気の中、収録されたフルトヴェングラーのワーグナーが素晴らしい。

ワーグナー:
・舞台神聖祭典劇「パルジファル」~第1幕前奏曲と聖金曜日の奇蹟(1938.3.15録音)
・楽劇「トリスタンとイゾルデ」~第1幕前奏曲とイゾルデの愛の死(1938.2.11録音)
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
・楽劇「神々の黄昏」~ブリュンヒルデの自己犠牲(1948.3.26録音)
キルステン・フラグスタート(ソプラノ)
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮フィルハーモニア管弦楽団

ベルリン・フィルとの暗い、いかにも妖艶な音調を醸す「トリスタン」からの2曲は、まるでこの後に起こる欧州の悲劇を先取りするかのような死の匂いに溢れる。激烈なパワーと圧倒的なエネルギーで聴く者をねじ伏せるその音楽は、とてもSPレコードからの復刻とは思えない迫力。
また、「パルジファル」からの崇高な2曲も、他のどの指揮者の解釈とも異なり瑞々しく、有機的な音を示す。聖愚者の純潔の愛の光を放つ一世一代の名演奏と言っても言い過ぎではあるまい。
そして、戦後すぐ、全盛期のフラグスタートの歌唱を記録した「自己犠牲」の目も醒めんばかりの勇猛な色香。伸びのある、艶やかな彼女の声がフィルハーモニア管弦楽団の音と一つになるとき、神々の没落とともに真の愛が解放されるのである。

そしてここまで見てきた通り、多くのユダヤ人がロシア革命で活躍し、革命当時、ソヴィエト・ロシアの総人口のなかで、わずか2%にも満たなかったユダヤ人が、共産党の幹部の椅子のうち52%という過半数を占拠したのである。
これは、ロスチャイルド家を支配者として、ユダヤ人の穀物商人がロシア経済の動脈を握り、ユダヤ人ブントという大きな民族集団が、医者をはじめとするインテリ階層を占めていたことによるものであった。
~同上書P157-158

何事にも必ず裏側がある。歴史の裏を知ることも重要だ。

 

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