アジア音楽祭2017 in 東京 ACLスペシャルイベント”Prayer”

音楽とは時間と空間の芸術なのだと痛感する。
その場限りの、膨大な音情報を一音も聴き逃すまいと臨む緊張感が心地良い。
現代の音楽に触れる喜び。
おそらく他では聴くことのできない希少性。しかも、築地本願寺の、昭和9年に建造されたという講堂でのコンサート。実に音響の素晴らしい会場での「いまここ」の快楽とでも表現しようか、素敵な2時間だった。

なるほど、現代の音楽作品の難解さは、人工的な直線的響きにその所以があるのだと思った。裏返すと、その人工性こそが聴く者の内側に真っ直ぐに届く由ゆえ、ひとたびそのことが理解できたなら、音楽を聴く意味が2倍にも3倍にも膨れ上がるのだということを知った。そしてまた、西洋音楽の隙のない直線性に対して、東洋の響きの、いかにも曲線的な美しさに僕はあらためて感動した。非合理的な曖昧さが、僕たち日本人の美徳なのである。

アジア音楽祭2017 in 東京
ACLスペシャルイベント”Prayer”
2017年11月2日(木)19時開演
築地本願寺講堂
室内楽の夕べ
・チャン・ルー・ホアン(ヴェトナム):戦争への祈り(Pray for War)(弦楽四重奏)
・リー・カー・タイ・フェーブス(香港):攸然是玉京(Everlasting is the Moon)(ヴァイオリン&ヴィオラ二重奏)
・マリー・ジョスリン・U・マーフィル(フィリピン):Karimlan(Darkness)(弦楽四重奏)
・鍋島佳緒里(日本):センシェンス(三絃&尺八)
休憩
・ヨンキョン・ホン(韓国):薄氷(Thin Ice)(弦楽四重奏)
・伊藤美由紀(日本):枯凋の美(III)(Fading Beauty 3)(三味線、尺八&チェロ)
・リー・イー・ウェイ・アンガス(香港):ジャロジンスキー断章(弦楽四重奏)
松岡麻衣子、甲斐史子(ヴァイオリン)
般若佳子(ヴィオラ)
細井唯(チェロ)
野澤徹也(三味線)
神令(尺八)

ベラ・バルトークを思わせるチャン・ルーの「戦争への祈り」に始まる今日のコンサートは、お寺という閉じられた空間の中でのパフォーマンスであったがゆえの文字通り「祈り」に溢れる演奏であったと思う。第3楽章のクライマックス、低弦から順に高弦へのバトンタッチと直後の総奏に瞠目した。何という音楽性。
また、ヴァイオリンとヴィオラによる二重奏「攸然是玉京」の何とも儚い調べに僕は揺れた。あるいは、一風変わった曲調を示す”Karimlan(Darkness)”は、「アブ・サヤフに殺された兵士たちの苦悩と苦痛の描写」だそうだが、トゥッティの悲痛な叫びに釘付けになり、同時にそこに垣間見られる魂の癒しと浄化に感動した。
さらには、三味線と尺八による鍋島佳緒里の「センシェンス」の、いかにもクライマックスに向けての緊張感と集中力!!何より2台の邦楽器の神韻縹緲たる響きに舌を巻いた。西洋の楽器に対峙する日本の楽器は、ほとんど魔法の楽器のように聴こえたのだが、果たしてそれは気のせいだったのか。月の裏側の、真正の陰の世界を髣髴とさせる音世界。素晴らしかった。

15分の休憩をはさみ、後半は一層前衛溢れる音楽の宝庫。
ヨンキョン・ホンの「薄氷」の極めて頭脳的な音楽に感心し、花の儚さを音で表現したという、りんと風鈴を伴う伊藤美由紀の「枯凋の美(III)」の、アンサンブルの集中力の見事さに驚いた。そして、ピエール・ブーレーズとの共同作であるというリー・イー・ウェイ・アンガスの「ジャロジンスキー断章」のこれでもかというほどの攻撃性(副題が「攻撃性についての3つの研究」というのだからそれも当然か)!何より難解さの中に見られる真実が心に迫った。

ちなみに、今日の会場にはいずれの作曲者も臨席していて、作品が紹介されるたびにステージに呼び込まれ、聴衆の拍手を浴びていた様にも「いまここ」が感じ取られた。まさに一期一会のひととき。現代の音楽を聴く喜び。感謝感激。

 

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