デイヴィス指揮ロンドン響のシベリウス クレルヴォ交響曲(2005Live)ほかを聴いて思ふ

音楽は映像を喚起する。
菊地成孔さんが、20世紀の文化史は一旦分断された視覚と聴覚が再び統合される映像の歴史とフラクタルだというようなことをおっしゃっていたと思うが、映画のサウンドトラック盤を聴いて、音が人間に与える官能の大きさについて考えた。
古く松尾芭蕉が、「古池や 蛙飛び込む水の音」と詠ったように、音は人間の想像力を見事に拡大する。

ヴィム・ヴェンダース監督の「パリ・テキサス」(1984)の音楽を担当したのはライ・クーダー。かのテーマ音楽を耳にするだけで、若きナスターシャ・キンスキーの虚ろで美しい表情を思い出す。あまりに懐かしい。人間の記憶というのはやっぱり耳の機能に負うところが大きいのかも。あるいは、ジャニス・ジョプリンをモデルにした「ローズ」の主役を演じたベット・ミドラーの歌う主題歌の(いまだに色褪せない)心に迫る美しさ。

Some say love, it is a river
That drowns the tender reed.
Some say love, it is a razor
That leaves your soul to bleed.
Some say love, it is a hunger,
An endless aching need.
I say love, it is a flower,
And you its only seed.

何事もどうとらえるかが鍵。僕たちは誰もが愛を源にするたったひとつの種だということを忘れてはなるまい。

Soundtracks The Very Best Themes
・Ry Cooder:Paris, Texas
・New American Orchestra:Main Title
・Phil Collins:Two Hearts
・Bette Midler:The Rose
・James Newton Howard:Main Title
・a-ha:The Living Daylights
・Christopher Cross:Arthur’s Theme
・Phil Collins/M.Martin:Separate Lives
・Simply Red:I’m Gonna Lose You
・Angelo Badalamenti:Twin Peaks Theme
・Aretha Franklin:Respect
・The Blues Brothers:Everybody Needs Somebody To Love
・John Williams:Theme from J.F.K.
・Chris Isaak:Dark Moon
・Eric Weissberg:Dueling Banjos
・R.E.M.:Fretless
・Ben E. King:Stand By Me
・Vangelis:Conquest Of Paradise

クリストファー・クロスの歌声も、フィル・コリンズの歌声も本当に優しい。

井の中の蛙、大海を知らず。
外に出ればこそ内の素晴らしさがわかるというもの。
好奇心を失わないこと。現状維持に留まらないこと。

ウィーン留学中、ジャン・シベリウスはハンス・リヒター指揮ウィーン・フィルの演奏によるブルックナーの交響曲第3番を聴き、感動に打ち震えたという。また、同じくベートーヴェンの交響曲第9番にも圧倒され、涙を流したともいわれる。新たな体験がインスピレーションを喚起し、内なる情熱から創造力を刺激された彼は、祖国フィンランドの民族的独立を祈り、クレルヴォ交響曲を生み出した。
サー・コリン・デイヴィスがロンドン交響楽団を指揮した2005年のライヴが素晴らしい。

・シベリウス:クレルヴォ交響曲作品7
モニカ・グロープ(メゾ・ソプラノ)
ペーテル・マッティ(バリトン)
ロンドン交響合唱団男声合唱
サー・コリン・デイヴィス指揮ロンドン交響楽団(2005.9.18&10.9Live)

シベリウスの愛国心刻まれる大作。
後の作品にある深遠な光と翳の交錯はまだ見られないが、青年シベリウスの血気盛んな野心がそこかしこに感じとれる。何よりコリン・デイヴィスが彼の魂に同期し、溌剌と表現する様が美しい。ほぼユニゾンの男性合唱が活躍する第3楽章「クレルヴォと彼の妹」の聡明かつ快活な音楽こそこの作品の軸であるが、前哨となる第2楽章「クレルヴォの青春」が、彼の悲哀の末路を予期するようで心に染みる。
そして、「フィンランディア」の如く心を鼓舞する第4楽章「戦いに赴くクレルヴォ」を経て、終楽章「クレルヴォの死」は暗澹たる葬送の音楽。
ワーグナーの「指環」と同じく、「クレルヴォ」でも近親相姦がテーマとなるが、古来タブーとされるこの主題を中心に据えたのは、シベリウス自身が、どんな英雄にもアキレス腱があるのだということを認めさせたかったからなのだろうと想像した。「クレルヴォ」の音楽は、それゆえか常に開放的だ。

 

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