MIDORI&エッシェンバッハのヒンデミット協奏曲(2012.10Live)ほかを聴いて思ふ

国境を越えることが「世界共通言語」たる音楽の役割だと思うのだが、少なくとも数十年前までは、音楽の世界にもれっきとしたイデオロギーがあった(今も?)。

チャーリー・パーカーがサヴォイに録音した全テイクを収めた代物。
さすがに「アドリブに命を懸けた」というだけあり、同じタイトルでも、ひとつとして同じものがないところがこの人を聴く醍醐味。何というグルーヴ!!70年を経た今もそのアルト・サックスは決して色褪せない。

だから、バードが吹きたいメロディーを吹いている一方で、オレ達はそれを憶えなきゃならなかった。彼はインスピレーションだけで自由に吹いて、すべてが決まっている西洋音楽的な共同作業の方法は取らなかった。バードは偉大なインプロバイザーで、彼自身、偉大な音楽はそうしてできるもの、そうできるのが偉大なミュージシャンだと信じていた。彼の考え方は「譜面なんか捨てちまえ」だった。西洋の記譜された音楽のやり方とは正反対で、頭の中にあることをうまく演奏すれば、すべてがうまくいくという考え方だった。
マイルス・デイヴィス、クインシー・トループ著/中山康樹訳「マイルス・デイヴィス自叙伝Ⅰ」(宝島社文庫)P135

実に正統な思考。型にはまらない真の自由の体現。それこそジャズ音楽の真骨頂だろう。

・Charlie Parker Memorial Vol.1 (1947.5.8 &12.21, 1948.9.18 &9.24録音)

Personnel
Charlie Parker (alto sax)
Miles Davis (trumpet)
Bud Powell (piano)
Tommy Potter (bass)
Max Roach (drums)
John Lewis (piano)
Curly Russell (bass)
Duke Jordan (piano)

言葉がない。最高である。

ところで、ナチスに「退廃音楽」のレッテルを貼られたパウル・ヒンデミットは多作家であったが、彼の作品のどれもが確かに当時同じく「退廃」とされたジャズ音楽のイディオムを包含し、どちらかというとポピュラー的ニュアンスの強い、現代ならより大衆の心をつかむであろう音調に満ちている。
ヒンデミットというと、思い出すのはフルトヴェングラーによる1934年の「ヒンデミットの場合」。

或る一部の党派の間でパウル・ヒンデミットに対する戦いが開始されています。彼は新しきドイツにとって「どうも容れられぬ」存在だからと言うのです。なぜなのでしょう?何をもって人は彼を誹謗しようとするのでしょうか?
フルトヴェングラー/芳賀檀訳「音と言葉」(新潮文庫)P184

こういう書き出しで始まるフルトヴェングラーの論は、芸術と政治の分離を訴え、次のように作曲家を擁護する。

ヒンデミットはかつて政治的な活動をしたことは一度もありません。もし政治的な告発が思いきり手広く芸術の上にまで向けられてくることになると、いったい我々はどうしたらよいというのでしょう?
~同上書P190

よく聴くと、ヒンデミットの音楽は旋律に富み、とても軽快でわかりやすい。
時に剽軽で皮肉っぽい音調が、聴く者を翻弄する。しかし、一方で、彼には厳粛な雰囲気を湛える、いかにもクラシカルな様相の作品がある。その最右翼は(ナチスによるポーランド侵攻のあった)1939年作曲のヴァイオリン協奏曲かもしれない。

ヒンデミット:
・ウェーバーの主題による交響的変容(1943)(2012.10.24&26Live)
・ヴァイオリン協奏曲(1939)(2012.10.24&26Live)
・弦楽と金管のための協奏音楽(1930)(2011.12.23Live)
五嶋みどり(ヴァイオリン)
クリストフ・エッシェンバッハ指揮NDR北ドイツ放送交響楽団

何より第2楽章におけるMIDORIのヴァイオリンの崇高な祈り。前半の、弱音から発せられる絶妙な音楽が、後半において爆発するときのカタルシス。何と温かい叙情。クライマックスの後にまた祈りへと回帰する魔法は、ヒンデミットを聴く醍醐味。また、第3楽章冒頭の金管の咆哮に彼らしい音楽性を思い、旋律の細かく忙しい動きに愉悦を思う(途中の勇壮な音楽が懐かしく、そして美しい)。なるほど、有事であるがゆえの緊張と皮肉。
パウル・ヒンデミットの天才を知る。
そしてまた、チャーリー・パーカーの天才を知る。

 

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