ブーレーズ指揮アンテルコンタンポランの「兵士の物語」(1980録音)ほかを聴いて思ふ

30年前、Traveling Wilburysの”Handle With Care”を聴いたとき、「なんて良い曲なんだろう!」と痺れた。今聴いても、その感想は何ら変わらない。
たった2枚のアルバムを残して(ただし、2枚目となる1990年リリースのVol.3には亡くなったオービソンは当然入っていない)空中分解したこのバンドは、いわゆる「覆面バンド」だ。Vol.1リリースから間もなく、ロイ・オービソンが急逝した。そして、それから10数年後、今度はジョージ・ハリスンが亡くなった。さらに、つい先日、今度はトム・ペティまでもが死んだ。残るのは、ジェフ・リンとボブ・ディラン。人の命は儚く、何とも哀しい・・・。

昨年、ボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞したとき、正直驚いた。
彼の詩が果たして文学なのかという問いについてはいまだに賛否両論あろう。長きにわたって書き綴られてきたそれはディラン本人が言うように、「文学というより音楽」なのだが、それでも彼の詩が世界の人々に多大な影響を与えたことは間違いのない事実だ。今さらながら、委員会の英断に拍手を贈りたいと思う。

ところで、今年の文学賞のイギリス人、カズオ・イシグロさんは日系ということもあり、世間は少々沸いた(今も沸いている?)。残念ながら僕は未読なので、彼の小説について今ここで語る資格がないのだけれど。ノーベル賞記念講演では自身のいくつかのエピソードを紹介されたという。

2001年、ロンドンでのある夜。イシグロさんは妻と「特急二十世紀」を見始めた。テンポのよいコメディーで面白い登場人物なのに、のめり込めない。なぜだろうと考えた。「それは、その人物と他の登場人物との関係が、人間的つながりとして面白くないからではないか・・・」
あれこれ考えひらめく。
「すべてのすぐれた物語は、読者にとって重要と思える関係を―読者を衝き動かし、楽しませ、怒らせ、驚かす関係を―含んでいなければならない。
~2017年12月12日火曜日朝日新聞

彼の小説の肝は「人間的つながり」にありそうだ。

影響を受けた歌手にボブ・ディラン、ニーナ・シモン、レイ・チャールズ、ブルース・スプリングスティーンらを挙げた。「歌唱から何かを感じたとき、私は自分に『そう、これだ』と言います。『あの場面にこれを―これに近い何かを―取り込まねば・・・』と。それは、言葉では表現しきれない感情ですが、歌手の歌声にはちゃんとあって、私は目指すべき何かをもらったと感じます」
~同紙

それにしても、オービソンをリード・ヴォーカルに据えた”Not Alone Any More”といい、ディランがリードをとる”Congratulations”といい、収録されるすべての楽曲が粒揃い。奇蹟のバンドであり、奇蹟のアルバムだと言っても過言でないくらい。

・Traveling Wilburys Vol.1 (1988)

Personnel
Otis Wilbury (keyboards, guitars, lead &backing vocals)
Nelson Wilbury (guitars, lead &backing vocals)
Charlie T. Jnr (acoustic guitar, lead &backing vocals)
Lefty Wilbury (acoustic guitar, lead &backing vocals)
Lucky Wilbury (acoustic guitar, lead &backing vocals)
Jim Keltner (drums)
Jim Horn (saxophones)
Ray Cooper (percussion)
Ian Wallace (tom toms)

日本人のノーベル文学賞といえば、川端康成。
ちなみに、ノーベル賞にノミネートされたきっかけとなったのが名作「古都」。

「千重子にもろた本だけは、持って行かはったんどっせ。」
それは、パウル・クレエとか、マチスとか、シャガアルとか、また、もっと現代の抽象の画集だった。新しい感覚でも呼びさましはしないかと、千重子が父のために買ったものであった。
川端康成著「古都」(新潮文庫)P48-49

バッハやモーツァルトだけでなく、20世紀の音楽をも愛したクレーの目も覚めるような筆致は、あらゆる「主義」に属さない独自の世界観。

「じつはな、千重子がクレエの厚い画集を、二冊も三冊もくれたんです。」
「クレエ、クレエて・・・?」
「なんでも、抽象の先達みたいな画家やそうでんね。やさしいて、品がようて、夢があると言うんでっしゃろか、日本の老人の心にも通じましてな、尼寺でくりかえし、くりかえしながめてると、こんな図案ができましたんや。日本の古代ぎれとは、まったく離れてますやろ。」
~同上書P60-61

川端は、佐田太吉郎にクレーの絵が日本人の老人の心に響くと言わせるが、果たしてその通りなのかも。ちなみに、クレーはストラヴィンスキーの音楽を愛した。なるほど彼の音楽も日本人の心をとらえて離さない、クレーに共通の独自の世界観があるのだろうと思う。

ストラヴィンスキー:
・兵士の物語(シャルル・フェルディナン・ラミューズ台本)
・12楽器のためのコンチェルティーノ
パトリス・シェロー(兵士)
アントワーヌ・ヴィテーズ(悪魔)
ロジャー・プランション(朗読)
ピエール・ブーレーズ指揮アンサンブル・アンテルコンタンポラン(1980.12録音)

「兵士のヴァイオリン」の旋律が脳内を駆け巡る(この音調は、不思議に”Handle With Care”と同質のように思えるのだが気のせいか?)。リズムに富み、音楽は喜びに溢れ、それでいてシニカルな哀感を湛える名演奏の名盤。不確かだけれど、たぶん、モーリス・ベジャールもシンパシーを覚えたのではないか、そんなことを考えた。
基本的に冷徹な印象を拭えないブーレーズの音楽作りだけれど、ストラヴィンスキーについては、中でも「兵士の物語」については内側で血がたぎり、相当な愛情をもって指揮をしているだろうことが想像できる。アンサンブル・アンテルコンタンポランのメンバーの技量も抜群。

 

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