ハーゲン四重奏団のヤナーチェク

janacek_quartett_hagen.jpg世間で日々物騒な事件が起こっている一方で、自宅のベランダの植物たちが雨に濡れながら元気よく生きている、そんな「生命力」を感じさせてくれる光景。
僕らが知らない、関知しない「日常」には実に様々なことがある。例えば宮崎県の家畜口蹄疫流行問題で、病気のこれ以上の蔓延を防ぐため、ワクチン注射後家畜たちが処分されるといういたたまれない出来事。人間のエゴが生み出す「世界」と、そんなものにまったく左右されず、周期的に花を咲かせ実をつける自然界の動きという対比。何だかすべてが自然や宇宙からの警告、アドバイスなのではないのか、朝、ぼんやりと外の景色を眺めていてふと思った。

自身の目先のことだけを心配するということがいかに些細で、くだらないことかを考えさせられる。ひとりひとりがもっと鳥瞰的に物事を見、判断することができたら世の中はもっと素晴らしいものになるだろうに・・・。

種牛の冷凍精液をもとに子牛を作り、全国に出荷していくというしくみって何なのだろう?もっといえば、そもそも牛の命って何なのだろう?彼らは人間に食されるために製造されているのだろうか?人間ってそんなに偉いのか?何だか、この世界のすべてが人間のエゴによって生み出され、かつ汚されているように思え、「悲しき熱帯」ではないが、文明の進化と言いながら人間の知性や感性は実に退化しているのではないか。

今の世界は人間中心主義であるが、生きとし生けるものがもっと調和しながら、互いに共生する、そんなような時代に早くならないものなのだろうか。まさにベートーヴェンが第9交響曲に託
したように・・・。

ところで、10数年前にザルツブルク音楽祭でハーゲン四重奏団の実演に触れた時のことをいつか書いた(以前のブログ記事を時折読み返してみる作業は何かと面白い)。シェーンベルクとベートーヴェンの「大フーガ」をメインにしたプログラムだったのだが、前衛的なシェーンベルクの音楽に負けず劣らず、楽聖の「大フーガ」が卒倒するような響きで演奏されたこと、そしてそれを聴いた瞬間僕の周りの誰もが(皆クラシック音楽にはそれほど造詣深くなかった)嫌悪感をまず抱いたことを思い出す。今でこそ「大フーガ」はベートーヴェン屈指の名作だと思えるが、初めて聴いた時(多分、フルトヴェングラーのアナログ・レコードだったと思う)、僕自身も全く理解できなかった。周囲からの忠告により作曲者自身が別の音楽に差し替えるほどだから、本人も革新的「過ぎる」と判断したのだろう。ただし、だからこそバッハのフーガ同様、この中には「全宇宙のすべて」が含まれていると思うのだ。まったくもって一部の隙もない完璧な音楽であると断言できる。

せっかくなので、久しぶりにハーゲン・カルテットを聴く。

ヤナーチェク:
・弦楽四重奏曲第1番「クロイツェル・ソナタ」
・弦楽四重奏曲第2番「ないしょの手紙」
ヴォルフ
・弦楽四重奏のためのセレナーデト長調WW XV/3「イタリア風セレナーデ」
ハーゲン四重奏団

ヤナーチェクの音楽の魅力は、ドヴォルザーク譲りのきちんとした形式美とそれに花を添える彼らしい「新しさ」、そして意味深い(精神性の深い=壮年期の結婚生活の崩壊や娘の死、あるいは晩年の運命の女性との不倫などの独自の体験に依るところが大きい)音調にある。まるで独り言のような「厭世感」が何とも言えないが、それでも当時の彼は「幸福」だったのだ。この中には「愛」が垣間見える。


2 COMMENTS

雅之

おはようございます。
・・・・・・かつては、人間自ら最も進化した生物として「万物の霊長」と称していた時代があったが、裏返せば「地球上で最も恐ろしい生物」の称号の反映であった。大量殺戮兵器を使用した世界レベルの戦争は人間の知能の所産である科学技術が自らに牙を剥きうる事を如実に示し、人間は産業革命の時代から続いた大量消費によって自然破壊、環境問題などを引き起こした。今も、人間の存在の是非は問い続けられている。・・・・・・
(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』、「人間」より)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%BA%E9%96%93
ヤナーツェックの作品、今朝は特に「ないしょの手紙」について。我々ヴィオラ弾く者にとっては、自分がヤナーツェックの「愛人」のように振舞える、これは狂わしくも魅惑してやまない作品なのです。
・・・・・・作品を通じてヴィオラが活躍するが、これはカミラ・ストスロヴァーの象徴である。第2楽章では、カミラが自分の息子を産んでくれるのではないかという夢ないしは妄想が描かれている。・・・・・・
(『ウィキペディア』 「弦楽四重奏曲第2番 (ヤナーチェク)」より)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%A6%E6%A5%BD%E5%9B%9B%E9%87%8D%E5%A5%8F%E6%9B%B2%E7%AC%AC2%E7%95%AA_(%E3%83%A4%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%83%81%E3%82%A7%E3%82%AF)
今度、ぜひ蠱惑的に振舞うヴィオラの音の動きに注目して、聴いてみてください。40歳も年下の美しき人妻の妖艶な姿が、きっと目に浮かびますよ。
先日、テレビのワイドショーで司会者のひとりが、玉置浩二の、タレント・青田典子との交際について、「ミュージシャンは《安全地帯》にいては、いい作品は残せない」といったような名言を吐いていました。絶えず地獄と紙一重のようなスリルに満ちた危険な場所に立っているくらいじゃなきゃね、「地球上で最も恐ろしい生物」の多くを納得させる作品なんて残せないと思いますよ、はい(笑)。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
>ぜひ蠱惑的に振舞うヴィオラの音の動きに注目して、聴いてみてください。
ありがとうございます。こういうことはその楽器に詳しい方に教わらないとなかなか気づかないものですよね。
>第2楽章では、カミラが自分の息子を産んでくれるのではないかという夢ないしは妄想が描かれている。
>40歳も年下の美しき人妻の妖艶な姿が、きっと目に浮かびますよ。
このあたり、特に意識して(笑)聴いてみます。
>「ミュージシャンは《安全地帯》にいては、いい作品は残せない」
この言葉、うまいですねぇ!
>絶えず地獄と紙一重のようなスリルに満ちた危険な場所に立っているくらいじゃなきゃね、「地球上で最も恐ろしい生物」の多くを納得させる作品なんて残せないと思いますよ、はい(笑)。
確かに!!

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