カラヤン指揮ベルリン・フィルのワーグナー「パルジファル」(1979-80録音)を聴いて思ふ

聖杯騎士の物語。
この演奏は、尻上がりに良くなる。
透徹された音の響き。オーケストラの各奏者の類稀なる力量。
もちろん独唱者の歌も一切の遜色なし。
先日、久しぶりに第1幕を聴いたら、あまりに洗練され過ぎていて、良いとは思わなかったのに(昔あれほど感激したのに)、今日第2幕と第3幕を聴いて、特にクリングゾルとクンドリとの絡みの黒い熱狂に、やっぱり素晴らしい録音だと確認した。
第2幕前奏曲の激しいうねり。

救いに与かることもかなわず
聖杯騎士の守護者は、俺さまのおかげでくたばるのだ。
そして遠からず―俺の皮算用では
この俺がグラールを守ることになろう。
そうか、そうか
あの英雄気どりが気に入ったのだな、
お前の慰みものに引き合わせてやったアムフォルタスが。
日本ワーグナー協会監修/三宅幸夫・池上純一編訳「パルジファル」(白水社)P51

ジークムント・ニムスゲルン歌うクリングゾルのここでの邪悪な感情表現の巧さ!
それに応えるドウニャ・ヴェイソヴィチのクンドリの、死を哀願する深遠な歌。

ああ、つらい、せつない!
あの人も、弱かった。だれもかも、みんな弱かった。
私にかけられた呪いに
私もろとも搦め取られてしまう。
ああ、永遠の眠りこそ
唯一の救い!
どうしたら、どうしたら、手に入れられるの?
~同上書P51

信仰は時間と空間を超えてあるもの。杓子定規で凝り固まった解釈ではなく、音楽に揺れや浮沈や、想像もできないような動きがある方がより感動を喚起するのだと思う。

・ワーグナー:舞台神聖祭典劇「パルジファル」
ホセ・ヴァン・ダム(アムフォルタス、バリトン)
ヴィクター・フォン・ハーレム(ティトゥレル、バス)
クルト・モル(グルネマンツ、バス)
ペーター・ホフマン(パルジファル、テノール)
ジークムント・ニムスゲルン(クリングゾル、バス)
ドウニャ・ヴェイソヴィチ(クンドリ、ソプラノ)
クラーエス・I・アーンショウ(聖杯守護の騎士1、テノール)
クルト・リードル(聖杯守護の騎士2、テノール)
マーリョン・ランブリクス(小姓1、ソプラノ)
アンネ・ジーヴァング(小姓2、ソプラノ)
ハイナー・ホプフナー(小姓3、テノール)
ジョージ・ティッキー(小姓4、テノール)
バーバラ・ヘンドリクス(花の乙女たち第1のグループ1、ソプラノ)
ジェナット・ペリー(花の乙女たち第1のグループ2、ソプラノ)
ドリス・ゾッフェル(花の乙女たち第1のグループ3、ソプラノ)
インガ・ニールセン(花の乙女たち第2のグループ1、アルト)
オードリー・ミッチェル(花の乙女たち第2のグループ2、アルト)
ローハンジス・ヤーヒミ(花の乙女たち第2のグループ3、アルト)
ハンナ・シュヴァルツ(アルト・ソロ)
ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1979.12.4-7, 10-12, 27-29 &1980.1.2-4, 4.15, 7.1録音)

何よりパルジファルが覚醒するそのシーンの恍惚感たるや・・・。
ヴェイソヴィチの声は柔らかい愛に満ち、ホフマンの声は実に平和的。

これは、いったい―夢なのか?
~同上書P65

いいえ、パルジファル、本当に何も知らないのね。
私の故郷は、はるか―はるか―遠い国。
あなたに見つけてもらおうと、ここで待ち受けていただけ。
遠い国から来た私は、そこでいろんなことを見たわ。
母の胸に抱かれた乳飲み子もね。その子がはじめて口にした
舌足らずの片言は、いまもこの耳に心地よく響いている。
~同上書P65

クンドリの長い告白は、パルジファルとクンドリが同じ星から来た同胞であることを明かす。世界の救済のためにようやく再会した二人。クンドリがパルジファルの額に手をかざすシーンの神々しさ。ついにパルジファルは真理を得るのである。

罪の告白は
悔いを残すだけ
ひとたび目覚めれば
愚かさも知に転じる。
さあ、愛を知るのよ。
ガムレットを抱きしめた愛を。
~同上書P69

そして、第3幕はやはり前奏曲から思い入れたっぷりの音調と、カラヤンらしい確信に満ちる音作りで、実に安心感がある。官能とスピリチュアリティが一体となる不思議な感覚。

そうではなく―
聖なる泉をじかに浴びて
巡礼の疲れを癒していただこう。
どうやら、このお方は
今日のうちにも大いなる働きを成しとげ
聖なる務めを果たすことになろう。
それには一点のけがれもあってはならぬ。
~同上書P93

グルネマンツに扮するクルト・モルの味わい深さ、素晴らしさ!
機能美豊かで、また色香漂うベルリン・フィルの音そのものが、まさにワーグナーの稀代の傑作と交錯する様。決してうるさくならないところがまた良し。

 

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