ビーチャム指揮ロイヤル・フィルのバックス「ファンドの園」(1947.12録音)ほかを聴いて思ふ

ジ・エニドの名前の由来は、やっぱりアーサー王伝説の「エレックとエニード」にあるのだろう。

たとえばハルトマン・フォン・アウエの「エーレク」「イーヴェイン」の原作は、それぞれクレチアンの「エレックとエニード」と「獅子の騎士」である。しかし画期的な作品は、1200年頃書かれたヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハの「パルチヴァール」であった。これはクレチアンの「聖杯の物語」の翻案で、ハルトマンの作品がかなり原作に近いのに対し、こちらは非常に独創的である。そこでは聖杯のテーマ体系は予期せぬ方向に発展し、なかでも政治的ユートピア建設の手段となっている。
アンヌ・ベルトゥロ著/松村剛監修「アーサー王伝説」(創元社)P116

アーサー王の物語は、歴史の進行とともにキリスト教とのつながりが密接になっていったのだが、もとはカール大帝の子孫とするカペー家に対し、プランタジネット朝がいわゆる「伝説」を作り上げて抗おうとしたものだという。有史以来のイギリスとフランスの敵対ともいうべきか。芸術創造のベースには、調和というより不協和というものがあるのだと思う。

明らかにアーノルド・バックスからの影響であろうジ・エニドのセカンド・アルバム「エアリー・フェアリー・ナンセンス」。全編インストゥルメンタルで占められるアルバムの爽快さ。大英帝国由縁のスノッブさの極み。”Bridal Dance”の美しさ。あるいは、間違いなくエマーソン・レイク&パウエルの”Touch And Go”に影響を与えたであろう(というよりまるで焼き直しのように思えなくもない)”The Grand Loving”の壮大な魔法に脳みそが刺激される。そして、屈指の名作”Love/Death-The Immolation Of Fand”の神秘的陶酔は、リヒャルト・ワーグナーの楽劇にも通じる崇高さ。

・The Enid:Aerie Faerie Nonsense (1977)

Personnel
Robert John Godfrey (keyboards)
Stephen Stewart (guitars and bass)
Francis Lickerish (guitars)
Charlie Elston (keyboards
Terry “Thunderbags” Pack (bass)
Dave Storey (drums and percussion)
Dave Hancock (trumpet)

そして、1913年のバックスは、交響詩「ファンドの園」。ゆらゆら揺らめく海に由来する壮大さと幻想。
光と闇が錯綜する音の結晶が見事に優しい。ちょうど70年前のビーチャム指揮ロイヤル・フィルによる録音が美しい。

・エドワード・ジャーマン:ジプシー組曲—4つの性格的舞曲
サー・トーマス・ビーチャム指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(1956.10.19録音)
・バントック:フィファイン・アト・ザ・フェア―交響詩第3番
サー・トーマス・ビーチャム指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団(1949.6.20, 27, 7.8 &10.1録音)
・バックス:交響詩「ファンドの園」
サー・トーマス・ビーチャム指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団(1947.12.14-15録音)
・バーナーズ:「ネプチューンの勝利」—バレエ組曲抜粋
サー・トーマス・ビーチャム指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(1947.12.20録音)

言葉を持たない音楽は、僕たちに幾通りもの解釈の有り様を示唆する。
その意味で、音楽に境界はない。凝り固まらずにただただ純粋に耳を傾けるべし。

彼女はリュートの調べで歌いだす
「ああ、なんてやるせない気持ち
あの人は今何処」
そして涙を流すと
「毎日が寂しくて、寂しくて
あの人は私の元へ来るのですか?」
彼女は荒れ果てた地の女王
一番の話し相手は海
~「ファンドの詩」フランシス・リカーリッシュ

電子楽器を中心に奏でられる音の詩は、ジ・エニドの真骨頂。

 

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