ブーレーズ指揮アンテルコンタンポランのベルク室内協奏曲(1977.6録音)ほかを聴いて思ふ

世界を微分すると最後は「数学」に至る。
自然の曲線に対して、人工の直線。その交差にこそ宇宙の理があるのだろう。
自然は常に揺らいでいる。音楽も本来そうだ。しかしながら、音楽を譜面に落とした時、それは直線的なものと化す。記号をいかに読みとるかが、人間の頭脳であり、また心だ。すべては曖昧でなければならぬ。

数学の興味深い側面の一つは、表面的にはまったくつながりのない部門と見えていたものに、つきせぬ関係があることがわかるところである。私は幼い頃から、πがいたるところに顔を出すことに、ずっと魅了されていた。学校では、πとは円周の直径に対する比のことだと習う。しかしπは数学のいたるところに顔を出す―幾何学の分野の外にさえ。
Alfred S. Posamentier/Ingmar Lehmann/松浦俊輔訳「不思議な数πの伝記」(日経BP社)P283

音楽に対する興味を突き詰めていくと、数の問題にぶち当たる。
古来、ピュタゴラスの時代から、音楽は数学同様、哲人にとって必須の学問であった。おそらく、音楽においても、πは切っても切れないものだ。それは、いたるところに顔を出す。古くはJ.S.バッハの音楽、現代ではバルトークや新ウィーン楽派の面々の創造する音楽。

アルバン・ベルクの音楽を、知的でありながら難解なものだと、随分長い間僕は思っていた。
しかし、その数学的構造を頭に叩き込み、集中して聴くことで、その単純で整頓された方法による作品が即座に身近なものとなった。しかも、彼の音楽は知性豊かなだけでなく、エロス冴え内在させるのである。ひとたびそのことに理解が及んだとき、ベルクの音楽に対しての愛着がどれほど拡大することか。

アルバン・ベルク・コレクション:
・ピアノ、ヴァイオリンと13管楽器のための室内協奏曲(1923-25)
ダニエル・バレンボイム(ピアノ)
ピンカス・スッカーマン(ヴァイオリン)
ピエール・ブーレーズ指揮アンサンブル・アンテルコンタンポラン(1977.6録音)
・ピアノ・ソナタ作品1(1908)
ダニエル・バレンボイム(ピアノ)(1977.6録音)
・クラリネットとピアノのための4つの小品作品5(1913)
ザビーネ・マイヤー(クラリネット)
オレグ・マイセンベルク(ピアノ)(1994.5-6録音)
・室内協奏曲からアダージョ(ヴァイオリン、クラリネットとピアノ用編曲)(1935)
ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)
ザビーネ・マイヤー(クラリネット)
オレグ・マイセンベルク(ピアノ)(1994.5-6録音)
・ワルツ「酒・女・歌」(ヨハン・シュトラウスⅡ/アルバン・ベルク編)(1921)
ボストン交響楽団室内楽プレーヤーズ(1977.4録音)

シェーンベルクの「月に憑かれたピエロ」でも超絶名演奏を聴かせた、ブーレーズとバレンボイム、そしてズッカーマン。ベルクの室内協奏曲でも集中力に富む、決して機械的でない人間的色気のある音楽を創出する。
冒頭モットーにおいて表わされる音形に、シェーンベルク、ベルク、ヴェーベルンの名前が織り込まれる第1楽章の、深みのある美しさ(どこかで聴いた旋律の引用らしきものがあるが、何だか思い出せない)。また、第2楽章アダージョの叙情、あるいは、第3楽章ロンド・リトミコの闘争。どの瞬間にも、ベルクの知性と感性が行き届く名曲の、数学をベースにする妙味(ちなみに、第1楽章の小節数は240、第2楽章も240、そして終楽章が480というように、音楽は数学的に整然と構成される)。

ピアノ・ソナタの、表現主義的な方法をとりながらとても優しく、懐かしい印象を与える旋律美。この幻想的で退廃的な音楽が、バレンボイムのピアノによって極めて現実的、健康的に響くのだから何とも面白い。

さらには、4つの小品作品5における、ザビーネ・マイヤーの虚ろなクラリネットの、時に剽軽で味のある音色に拝跪する。同じく室内協奏曲アダージョの三重奏版での、まるで自身の声のように楽器を操り音楽を奏する巧さに感服。

なるほど、数学の面白さにはまったとき、ついにアルバン・ベルクの音楽が受容できるのかもしれない。
(「私的演奏協会」のために編曲されたヨハン・シュトラウスⅡのワルツがまた洒落ていて、素晴らしい)

 

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