ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルの「悲愴」(1982.10Live)ほかを聴いて思ふ

録音に入りきらない演奏というものがあると知った音盤。
特に、大音量での金管群の怒涛の咆哮は、背筋が凍るほどの壮絶さ。あまりの緊張感にオーケストラ団員は固まってしまったのではないかと思うほど。しかし一方、弦楽器が歌う、例えば第1楽章第2主題の柔和で浪漫薫る調べに思わず涙する。メリハリの利いた、まるで生き物のような音楽はほとんど魔法の域と言って良い。しかも、その解釈は若い頃から見事に変わりないのだからそれこそ奇蹟である。

エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルハーモニーによるチャイコフスキーの「悲愴」。トゥッティの峻厳さ。展開部冒頭の轟音が、文字通り僕たちの肺腑を抉る。第1楽章アダージョ―アレグロ・ノン・トロッポが素晴らしい。そして、終楽章アダージョ・ラメントーソ、嘆きの歌の心地良さ。クライマックスに向けてひた走る、厳しさの中に夢を見るムラヴィンスキーのメルヘンは不滅だ。

チャイコフスキー:
・交響曲第6番ロ短調作品74「悲愴」(1982.10.17Live)
・幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」作品32(1983.3.19Live)
エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

死後の魂の昇華には、苦しい闘争が付きものなのかも。
悲しいけれど、あまりに美しい。

チャイコフスキーは、シューベルトのロ短調交響曲、通称「未完成」に触発されたのではなかったか。奇しくも緩徐楽章で終わらざるを得なかったたった2つの楽章ながら類稀な完成度を誇る(?)作品は、同じく苦悩付きの天使の歌。ムラヴィンスキーの「未完成」交響曲は、他のどんな指揮者に較べても、余計な感傷を排した純音楽美を呈している。

・ウェーバー:歌劇「オベロン」序曲
・シューベルト:交響曲第7番ロ短調D.759「未完成」
・ブラームス:交響曲第2番ニ長調作品73
エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団(1978.6.12&13Live)

やはり録音には入りきらないムラヴィンスキー芸術の、金管や打楽器の炸裂以上に重要な要素が神韻縹緲たる弱音美。フランツ・シューベルトのトルソー作品が、どこか痛々しく鳴り響くのは、音の波動の繊細さと、冷徹でありながら心底感情移入する指揮者の心魂によるのだろうと僕は思う。

ところで、チャイコフスキーの「悲愴」終楽章、そして、シューベルトの「未完成」第2楽章から、どういうわけか僕はX JAPANの”FOREVER LOVE”を連想する。この変ロ長調の曲の内にある哀愁と、YOSHIKIが生み出すあまりに美しい旋律に、いつどんなときも思わず心震えるのである。それは、チャイコフスキーやシューベルトのかの曲を聴くときに感じる戦慄とほとんど同じ質であるところが(我ながら)面白い。

・X JAPAN:FOREVER LOVE (1996)

Personnel
ToshI (vocal)
HIDE (guitar)
YOSHIKI (drums, piano, chant)
HEATH (bass, chorus)
PATA (guitar)

なんだろう、この切なさは。
音楽が人間の感情に訴えかける、その源泉がこの中にはある。

もう〇〇〇〇〇〇い
時代の〇〇〇〇〇〇
Ah 〇〇〇〇〇〇んて
〇〇〇〇〇 だけど今は・・・
(作詞・作曲/YOSHIKI)

哲学には、頭脳や知的作用を情熱や感情と分ける傾向がある。この傾向は心理学に移り、そこから神経科学に入り込んだ。とくに音楽の神経科学は、音高や音程、メロディー、リズムなどを知覚する神経のメカニズムにほぼ集中して取り組み、ごく最近まで、音楽鑑賞の感情面胃ほとんど注目してこなかった。しかし音楽は人間性の両面に訴えかける。本質的に知的であると同時に、本質的に感情的なのだ。私たちは音楽を聴くとき、たいてい両方を意識している。作品の形式的構造を理解しながら、その深みに感動することもある。
オリヴァー・サックス/大田直子訳「ミュージコフィリア(音楽嗜好症)—脳神経科医と音楽に憑かれた人々」(早川書房)P387

悪魔的響きの「フランチェスカ・ダ・リミニ」にある幸福感。
あるいは、田園の憂愁、否、酷寒の枯山水を髣髴とさせるブラームスのニ長調交響曲の自然美。世界のあらゆる音楽には、人間性を鍛える要素が含まれている。嗚呼・・・。

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