ピリスのモーツァルトK.309, K.332 &K.570(1990.7&8録音)を聴いて思ふ

ザルツブルク時代も、ウィーン時代も、モーツァルトの音楽はとても優しい。
例えばピアノ・ソナタには喜怒哀楽、様々な感情が刷り込まれ、人間臭いシーンがあり、神々の降臨するような崇高なシーンがある。演奏が良ければ感動も一入。

マリア・ジョアン・ピリスが早くも引退するのだという。
彼女のモーツァルトは絶品だ。
旋律は歌い、リズムは跳ね、実に自然体の音楽。
たぶん、僕がここでどんなに文字を重ねようと、その素晴らしさは微塵も伝わるまい。
どのソナタでも良し。虚心に耳を傾け、音楽に身を委ねれば、魂はきっと洗われる。

ソナタヘ長調K.332の、絶妙な呼吸とニュアンス豊かな音色に心奪われる。
何て良い曲なのだろう。

私の発表会の成功についてあれこれと申し上げるまでもないと思います。多分もうお聞きになっていることでしょう。ともかく、劇場はこれ以上詰めこむ余地がないくらいで、ボックスも全部ふさがりました。何よりも嬉しかったのは、皇帝陛下がお見えになり、大層ご満悦の様子で、大いに喝采をして下さったことです。
(1783年3月29日付、父レオポルト宛)
柴田治三郎編訳「モーツァルトの手紙(下)」(岩波文庫)P90

人間は誰でも、どんな天才でも、認められれば躍り上がるのだ。
いかにも彼の、喜びの噴出が行間に垣間見える。

モーツァルト:
・ピアノ・ソナタ第7番ハ長調K.309(284b)
・ピアノ・ソナタ第12番ヘ長調K.332(300k)
・ピアノ・ソナタ第16番変ロ長調K.570
マリア・ジョアン・ピリス(ピアノ)(1990.7&8録音)

財政上の苦悩のあった晩年においても、音楽の調子はいかにもモーツァルト的明朗さと可憐さを持ち、同時に透明だ。愛らしいソナタ変ロ長調K.570の美しさ。

このごろ、自分から市内へ出かけて、お示し下さった友情に対して、じかにお礼を申し上げることができるものと、いつも思っていました。ところが今はとてもあなたの前に現れるだけの勇気がありません。正直のところ、拝借したものをそんなに早くお返しすることがどうしてもできませんので、まだご猶予をお願いしなければならないからです!
(1788年6月27日付、プフベルク宛)
~同上書P139

ピリスの実演をもう一度聴きたかったが、この春の来日公演はどうしても予定が立たない。無念。

 

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