クナッパーツブッシュ指揮ウィーン・フィルのブラームス第3番ほか(1955.7.26Live)を聴いて思ふ

冒頭の和音が暗く物々しい。
しかし、音楽の進行とともに音に真実味が増し、古い録音を超え、音の波が僕たちの心をとらえる。あっという間にそのレンジの狭さが気にならなくなるのだから、その日の演奏に込められた想いが並大抵でなかったことを知る。何より音楽そのものへの奉仕。恐れ入る。

前年に急逝したヴィルヘルム・フルトヴェングラー追悼。
音楽の良し悪しは波動にあり、うねりにある。クナッパーツブッシュ指揮ウィーン・フィルによるザルツブルク音楽祭の記録の実に感動的なことよ。一期一会の名演奏。

1880年、時をほぼ同じくして作曲された2曲、「大学祝典序曲」と「悲劇的序曲」は性格が正反対の音楽だが、いずれにもヨハネスのクララへの愛が溢れる。同年末のクララ宛手紙。

今日は当地で序曲の試演がありました。「悲劇的序曲」は26日に上演します。あなたに2曲ともお気に入るとよいと存じます。あなたを想うことなく私が指揮棒を振ることがないことは、あなたにもご想像になれるでしょう。あなたが聴いてくださる時には、喜びが倍加されるのです。
(1880年12月、ウィーンのブラームスからクララ・シューマン宛)
ベルトルト・リッツマン編/原田光子編訳「クララ・シューマン×ヨハネス・ブラームス友情の書簡」(みすず書房)P252

初演は、ハンス・リヒター指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によって行われた。

ザルツブルク音楽祭1955
ブラームス:
・悲劇的序曲作品81(ヴィルヘルム・フルトヴェングラーの思い出に)
・交響曲第3番ヘ長調作品90
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1955.7.26Live)

旧祝祭劇場での実況録音。音楽は終始深く、また柔らかい。
幾分抑え目でありつつも、咆哮する金管群のすごさは相変わらず。もちろん囁く木管群やうねる弦楽器群の強力な応答にのけ反るほど。それに、音楽の進行とともに、おそらく興が乗るのか、クナッパーツブッシュの棒はますます神がかり、音楽の隅から隅までエネルギーとパッションに満ちるのだから、なおおそるべし。会場の空気が一変し、聴衆が完全に金縛りに遭っている様が想像できるくらい。
第2楽章アンダンテの、思い入れたっぷりの表情は本当に感動的。
第3楽章ポコ・アレグレット中間部の、クナッパーツブッシュらしいテンポを緩めての何とも悲しい牧歌的表情が印象的。
白眉は終楽章アレグロ。冒頭のゆっくりした静かな足取りから一転、激しく沸き立つ問答無用の悪魔的音響は、もしその日その時会場に居合わせていたら失禁していたかもというほど。何という巨大さ!!

壮絶な嵐が止み、第1楽章第1主題の回想シーンを経て、静かに曲が閉じられる瞬間の筆舌に尽くし難い恍惚。クナパーツブッシュはたぶん心中、この演奏もフルトヴェングラーに捧げていたのだろうと思う。

 

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