アンドラーシュ・シフのヤナーチェク「霧の中で」(2000.1録音)ほかを聴いて思ふ

レオシュ・ヤナーチェクを聴きながらキース・ジャレットを想った。
いずれも、都会的洗練と田舎的土俗の入り混じる至高の芸術作品。
僕はヤナーチェクの音楽にジャズ的即興(すなわち主観)を感じる。一方で、キースの音楽にクラシック的客観性を感じるのである。

その昔、ヤナーチェクの音楽は晦渋で、とっつき難い印象があった。しかし、よく考えると、それは決して理解不能の代物でなく、ニュアンスがあまりに自然で、音楽に余計な主張がないからなのだと、ある日ある時、わかった。
幾種もある歌劇も、数多のピアノ作品も、特別心に留まる旋律の宝庫とは言い難いのに、再び聴きたくなる、何とも言えぬ気品漂う芸術性。ヤナーチェクの神髄はそこにあろう。

アンビエント・ミュージック的であるといえば言い過ぎなのか?
邪魔にならない、いわば中庸の音調。
アンドラーシュ・シフのピアノを聴いて思った。
この気品はどこから溢れ出たものなのか?それはヤナーチェクの、あくまでプラトニックを貫くような、遠慮がちでありながら自信に満ちた音楽性に拠るもの。

「霧の中で」の、くぐもった音から発せられる自然美。

ヤナーチェク:
・4つの小品「霧の中で」
・ピアノ・ソナタ「1905年10月1日」
・組曲「草陰の小径」第1集
・組曲「草陰の小径」第2集
・組曲「草陰の小径」補遺
・「思い出」
アンドラーシュ・シフ(ピアノ)(2000.1録音)

たぶん、作曲家の意志が超越しているのだろう、悲しい音楽であるはずなのに、決して悲しくない音色。また、2つの楽章を持つ「ピアノ・ソナタ」の囁くような繊細さ。あるいは、「霧の中で」の情緒に感動。
律儀な、折り目正しい音楽はシフの性格の証だろうと想像するが、大英帝国の退廃に近いニュアンスを僕は感じ取る。その意味で、この録音に、ジェネシスの「月影の騎士」を思い起こさせる「何か」がありそうだ(無理矢理すぎる?)。

・Genesis:Selling England By The Pound (1973)

Personnel
Peter Gabriel (vocals, flute, oboe, percussion)
Tony Banks (keyboards, 12-string guitar)
Steve Hackett (electric guitar, nylon guitar)
Michael Rutherford (12-string guitar, bass, electric sitar)
Phil Collins (drums, assorted percussion, lead vocals, backing vocals)

永遠の”Dancing With The Moonlit Knight”。これぞ初期ジェネシスの最高傑作群の一つ。
美しさの極み、インターリュードの幻想的音響こそジェネシスの真骨頂。そして、ジョン・レノンを釘付けにしたといわれる”I Know What I Like (In Your Wardrobe)”でのガブリエルの絶叫ヴォーカルのエネルギーの凄まじさ。
あるいは、フィル・コリンズが初めてリード・ヴォーカルをとった小品”More Fool Me”の静かで可憐な歌。何という純粋さ、素朴さ。

And you’d be the one who was laughing
And giving me something I don’t need
And you know, I’d always hold you and keep you warm
Oh! more fool me.

悲しいけれど温かい。
高踏的でありながらどこか俗っぽさを秘めるヤナーチェク(キース・ジャレットの即興性を包含する)に、初期ジェネシスの静かな荒々しさ。いずれにも崇高な美がある。ジェネシスはライブでこそ力量を発揮するバンドだったと思う。
なるほど、ヤナーチェクにもジャレットにも、そして初期ジェネシスにも影がある。

 

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