ブリテン指揮イギリス室内管のパーセル「妖精の女王」(1970.9録音)ほかを聴いて思ふ

プログレッシブでありながらポップ。
分厚い音で、直接的に心に響く歌は、ここで彼らは新たに生まれ変わったことを示す。
僕は第1曲”Behind The Line”に続く第2曲”Duchess”のイントロでドラムスとキーボード、そしてベースによる滔々と流れる水の如くの癒しのリズムに当時一発で感化された。想いは今も変わらない。
洗練されたひとつひとつの楽曲は、40年近くを経た今も実に説得力がある。最後の”Duke’s Travels”から第1曲のテーマが回帰する終曲”Duke’s End”における大団円とカタルシス。

・Genesis:Duke (1980)

Personnel
Tony Banks (keyboards, backing vocals, 12-string guitar, duck)
Mike Rutherford (guitars, basses, backing vocals)
Phil Collins (drums, vocals, drum machine, percussion, duck)

80年代の、一世を風靡したポップ・ジェネシスの狼煙がここで上がるのだが、しかし一方でかつての大英帝国的憂愁美を置き去りにしていないところが最高。ここにあるのは疾走する悲しみと、また優しさ。55分の音のドラマがあっという間に過ぎ去ってゆく。

そう、疾走する悲しみと優しさの同居こそが英国的センスの一端だと僕は思うのだ。
それはとても長い時間をかけて醸成されたもので、17世紀ヘンリー・パーセルの中にもあり、また、20世紀ベンジャミン・ブリテンの中にもある。

歌劇「ピーター・グライムズ」作曲にあたり、ブリテンは次のように書く。

私の主な狙いの一つは、英語につけた音楽を輝かしい、自由な、生き生きしたものに建て直そうという試みだ。それは、不思議なことにパーセルが没して以来途絶えていた。
デイヴィッド・マシューズ著/中村ひろ子訳「ベンジャミン・ブリテン」(春秋社)P103

彼は、明らかにヘンリー・パーセルの影響を受けたという。
イングランド、バロック期のこの巨匠に再び光を当て、作品を何曲も現代の譜面に起こし演奏することで、ブリテンは自らの語法を確固としたものにした。

カール・リヒターのバッハのような峻厳さはここにはない。
しかし、自身が編曲した版により、モダン楽器を意味深く、そして朗々と鳴らし、この人の音楽作品をより身近なものにしたという意味で、(ピーター・ピアーズと共に)ベンジャミン・ブリテンの功績は大きい。
簡素な響き、あるいは明快かつ自然な音の流れ。同時に知性溢れる音楽。

パーセル:
・「妖精の女王」Z629(ピーター・ピアーズによって考案されたコンサートのための要約版のベンジャミン・ブリテン&イモージェン・ホルスト編曲版)(1970.9.18-21録音)
―第1部「オベロンの誕生日」
―第2部「夜と静寂」
―第3部「優しい情熱」
―第4部「婚礼の歌」
ジェニファー・ヴィヴィアン(ソプラノ)
メアリー・ウェルズ(ソプラノ)
ノーマ・バロウズ(ソプラノ)
アルフレーダ・ホジソン(メゾソプラノ)
ジェームズ・バウマン(カウンターテナー)
チャールズ・ブレット(カウンターテナー)
ピーター・ピアーズ(テノール)
イアン・パートリッジ(テノール)
オーウェン・ブラニガン(バス)
ジョン・シャーリー=カーク(バス)
アンブロジアン・オペラ合唱団
・「メアリー女王の誕生日のためのオード1693」Z321(1967.3.2Live)
・「弦楽のためのシャコニー」ト短調Z730(ブリテン編)(1968.12.18&19録音)
ヘザー・ハーパー(ソプラノ)
ジョセフィン・ヴィージー(メゾソプラノ)
ジェームズ・バウマン(カウンターテナー)
ピーター・ピアーズ(テノール)
ジョン・シャーリー=カーク(バス)
アンブロジアン・シンガーズ
ベンジャミン・ブリテン指揮イギリス室内管弦楽団

あくまで個人的見解だが、演奏家としてのベンジャミン・ブリテンの力量は、(比較の対象とはならないだろうが)レナード・バーンスタイン以上。「妖精の女王」第1部冒頭シンフォニーから何と確信に満ちた華麗な音!あるいは、フィーバスの「長い厳しい冬が地を凍らせ」でのピアーズの情感こもる美しい歌!そして、それに応えるように弾ける合唱「万歳、私たちすべての偉大な父」の喜び!

第2部「夜と静寂」においても、冒頭前奏曲から音楽は躍動する。僕は、歌い手たちの「機知の神が聖なる9人に霊感を与えて」に痺れ、続く合唱「さあ、あなたがたのすばらしい声を全部合わせて!」に唸る。そして、第3部「優しい情熱」、羊飼いの「愛が優しい情熱なら」でのピアーズの声が何と切ないことか。第4部「婚礼の歌」終盤、シャコンヌから合唱「2人はその清らかさと同じくらい幸せになるように」にかけての開放的響きに、こういう音楽と演奏を残してくれたことへの感謝の念が喚起される。
なるほど、音に厚みを持たせるも、決して重くならないところがブリテンの解釈の妙。

 

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