ロンドン交響楽団パーカッション・アンサンブル

とても幸せな気持ちになった。
スティーヴ・ライヒのすごさを思い知った。
また、正確なビートを見事に刻むことのできる鍛錬されたアンサンブルの妙味を知り、僕たちがすべて鼓動の中にあることを知った。美しい。

芸術は、音楽は自然の中にある。たとえ精緻な演奏を披露することができたにせよ、機械にはあの移ろいや微妙な揺れは表現できないだろう。何より音の、否、音楽の温かさ。実演で聴かない限り、スティーヴ・ライヒの音楽にある微かな温度の変化をとらえることはなかなかできまい。

ニール・パーシーのMC入りの、何とも近しい、親しみを感じる、アットホームなコンサート。僕はもっと土臭いものなのかと想像していた。しかし、さすがはロンドン交響楽団の、精鋭の首席(及び首席級)パーカッション奏者たちだけあり、実に洗練された、ジャジーでありながら、(おそらくあまり)踏み外しのない美しい音楽が繰り広げられた。
冒頭、ゲイリー・バートンに捧げられたチック・コリアの「デュエット組曲」の、虚ろなヴィブラフォン・アンサンブルに酔いしれた。何という優しさ。続く、ジョー・ロックの「ハー・サンクチュアリ」の音の柔らかさにも同様。しかし、その後の、ジョン・アダムズ作「ロール・オーヴァー・ベートーヴェン」に僕は身震いするほど感動した(第1ピアノ、フィリップ・ムーア/第2ピアノ、ジョセフ・ハヴラット)。2つの楽章は、ベートーヴェンのソナタ作品110の主題断片と「ディアベリ変奏曲」の旋律断片をモチーフに、いかにもアダムズらしい超絶技巧、疾風怒濤の創造物。戊戌年を象徴するかの如く、文字通り破壊と再創造の産物なのである。素晴らしかった。
前半最後の、小曽根真の「カトーズ・リヴェンジ」では、キャリントンのアレンジが光った。演奏終了後、客席の小曽根が呼び寄せられ遠慮がちにステージに上がったが、彼の謙虚な姿勢がまたとても清々しかった。

ロンドン交響楽団パーカッション・アンサンブル
2018年3月6日(火)19:00開演
東京オペラシティコンサートホール
・チック・コリア:デュエット組曲(サイモン・キャリントン編)
・ジョー・ロック:Her Sanctuary
・ジョン・アダムズ:ロール・オーヴァー・ベートーヴェン
・小曽根真(サイモン・キャリントン編):Kato’s Revenge
休憩
・スティーヴ・ライヒ:木片のための音楽
・スティーヴ・ライヒ:六重奏曲
ロンドン交響楽団パーカッション・アンサンブル
ニール・パーシー
デイヴィッド・ジャクソン
サム・ウォルトン
サイモン・キャリントン
フィリップ・ムーア
ジョセフ・ハヴラット

休憩をはさみ、後半のスティーヴ・ライヒ2曲は圧巻。
「木片のための音楽」では、5人の奏者がウッド・ブロックによって素晴らしい音楽を聴かせてくれた。正確なリズムの中にある、絶妙な拍子の変化と、めくるめく伸縮を繰り返す音楽の魔法。終わりは突然に訪れるが、その終止の絶妙さ!生きていることの素晴らしさを思い知った。ライヒの音楽の裡にある温かい人間性を知った。そして、ヴィブラフォン、マリンバ、バス・ドラム、クロタル、タムタムやピアノ、シンセサイザーによる「六重奏曲」の、ほとんど気狂い沙汰の(?)息もつかせぬ見事なアンサンブルと、それでいてライヒらしい正確な「曖昧さ」を呈した演奏に僕は言葉を失った。反復される旋律が頭から離れない。
一体何という音楽をスティーヴ・ライヒは創ってしまったのだろう。幸せである。

 

ブログ・ランキングに参加しています。下のバナーを1クリック応援よろしくお願いいたします。


音楽(全般) ブログランキングへ

にほんブログ村 クラシックブログへ
にほんブログ村


1 COMMENT

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む