第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクール公開記者会見・プレゼンテーション

水準と音楽の完成度からいってドイツの巨匠たちと並ぶべき地位を私が認める作曲家は、ただショパンあるのみです。
(1954年、クルト・リース宛ヴィルヘルム・フルトヴェングラーの手紙)

ショパンを積極的に聴かなくなって久しい。
それに、ある作品が作曲された時代の楽器を使用しての奏法や演奏そのもの、つまりピリオド楽器、あるいは奏法云々という学究的な試みにもあまり興味がないものだから、現代楽器との違いや、果たして演奏がどう違って聞こえるのかなどについてはまったくもって無知だった。

第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクール公開記者会見・プレゼンテーションがトッパンホールで催されるというので、物見遊山気分で出かけた。

ステージ上には、現代ピアノのほか、1845年製エラールと1848年製プレイエルのピリオド・ピアノ。会は2部制になっており、第1部は、ヤツェク・イズィドルチク駐日ポーランド共和国大使による歓迎の挨拶に始まり、コンクールの主催である国立ショパン研究所のお二人からのコンクールについての詳細説明、その後、ダン・タイ・ソンによる「ピリオド楽器がピアニストに与えるインスピレーションについて」と題するお話しとパフォーマンスと進み、90分が閉じられた。昼休憩をはさみ、午後の第2部は、ピアノ演奏に関するアドバイスや試奏ということだったので第1部で辞去。
とても興味深い時間であった。

第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクール公開記者会見・プレゼンテーション
2018年3月13日(火)11:00~15:00
トッパンホール
第1部(11:00~12:30)記者会見およびプレゼンテーション
・歓迎のご挨拶 
ヤツェク・イズィドルチク駐日ポーランド共和国大使
・2つのショパン国際ピアノコンクールについて
マチェイ・ヤニツキ国立ショパン研究所副所長
ヨアンナ・ボクシチャニン国立ショパン研究所チーフ・プロデューサー
・ピリオド楽器がピアニストに与えるインスピレーションについて
―ワルツ第9番変イ長調作品69-1「別れ」冒頭
―ピアノ・ソナタ第2番変ロ短調作品35「葬送」第1楽章冒頭5小節目からの主題
―ノクターン第8番変ニ長調作品27-2冒頭
―マズルカ第13番イ短調作品17-4冒頭
ダン・タイ・ソン(ピアノ&解説)
・質疑応答
・フォトセッション

今度のコンクールの一番の目的は、ショパンのリアルな魅力を伝えることだそう。ショパンが実際に使用したピアノを使うことで、作品表現において楽器との密接な関係性を聴衆に知っていただくことなのだと。確かに、ダン・タイ・ソンによる、あくまで作品の断片ではあるが、それぞれの楽器での演奏を聴き比べたところ、その響きのあまりの違いに僕は驚いた。

ダン・タイ・ソンは未知のものを発見することにとても興奮するのだという(フランス・ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラとの共演は衝撃だったらしい)。ピリオド楽器はまったく別の楽器を演奏している感覚だそうで、タッチも柔らかく、残響も短いので通常とは違った訓練をしたそうだ。現代ピアノは全身で演奏、一方のピリオド・ピアノは指先に意識を集中して演奏するのだという表現に納得。それによって木製のピリオドは、か細いながら温かい響きが生まれるらしく。
それはまさにバイブレーションの違いで、「歌うこと」と「語ること」の違いだと彼は比喩していたが、実際に音を聴いてみて、ピリオドによる素朴な音楽に、ショパンの本懐を発見することもあながち無理なことではないような気がするのだから面白い。

演奏された作品の断片も、それぞれとても美しかった。例えば、ノクターンの、現代楽器による演奏は華麗さが前面に押し出される一方、ピリオド(プレイエル)によるものは何とも素朴で夢見る音色。また、マズルカはエラール製ピアノで弾かれたが、これがまた裸のショパンを見るような印象。

ショパンは音楽史的にロマン派にくくられるが、今日のような比較演奏を聴くと、彼の音楽自体は決して感情過多なものではなく、本来もっと赤裸々で素朴な響きを求めるものなのではないのかと思ったくらい。

そういえば、フルトヴェングラーが次のようなことを書いていた。

ショパンが彼の最高傑作でみせる柔軟さと音の輝きは、実にみごとな作品の技法に結びつき、他に比類なきものである。個々の部分の充実と全体の安定性においてこれに匹敵しうるのはバッハのみであるが、ただしバッハは他の前提のもとに立っている。
(音楽ノート1945年)

あらためてショパンを(できればピリオド楽器演奏で)聴き直してみようか。

 

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