クーシスト&ツルネンのシベリウス「水滴」(2003.4録音)ほかを聴いて思ふ

若書きとはいえ、緑薫る、癒しの逸品たち。
モーツァルトやショパンや、天才といわれる音楽家たちの木魂が聴こえる。後の、内省的、ともすると晦渋な印象は当然まだそこにはない。
創作にどれほど苦しもうと、試行錯誤を繰り返し、推敲を重ね、従来にない革新を生み出す姿勢に、また、どれほど酒や煙草に溺れようと、ここに創作者としてのジャン・シベリウスの十分な価値を僕は見出す。
何より、BISレーベルが、ほんのわずかな断片も含め、彼の全作品を録音し、網羅した偉業に拍手を送りたい。

巷間、最初の作ではないかといわれるわずか1分にも満たない「水滴」(1875?)は、ヴィオリンとチェロの二重奏であり、文字通り水滴を表わすように、ピツィカートで紡がれる。あるいは、2つのヴァイオリンのための「空中楼蘭」(1881?)の、10代の少年とは思えぬ哀愁に満ちる。少年シベリウスの本懐。

ヴァイオリンを真面目に習い始めると、他の興味が急に色あせて見えるほど、私の心は音楽に囚われてしまった。以後、十年間にわたり、偉大なヴァイオリニストになるのが私の夢だった。
神部智著「作曲家◎人と作品シリーズ シベリウス」(音楽之友社)P21

後年、シベリウスが伝記作家カール・エクマンに語ったと言われる言葉である。
シベリウスは、ヴァイオリンで感じ考え、音楽を類稀な音楽を創造した。

シベリウス・エディション―室内楽作品集Ⅱ
・ヴァイオリンとチェロのための「水滴」JS216(1875)(2003.4録音)
ヤーッコ・クーシスト(ヴァイオリン)、タネリ・ツルネン(チェロ)
・2つのヴァイオリンのための二重奏曲「空中楼蘭」JS65(1881)(世界初録音)(2006.8録音)
ヤーッコ・クーシスト(第1ヴァイオリン)、ラウラ・ヴィクマン(第2ヴァイオリン)
・チェロとピアノのためのアンダンティーノハ長調JS40(1884)(1996.9録音)
・チェロとピアノのためのアンダンテ・モルトヘ短調JS36(1887)(1996.9録音)
トーレイヴ・トデーン(チェロ)、フォルケ・グラスベック(ピアノ)
・2つのヴァイオリンとチェロのためのセレナータJS169(1887)(世界初録音)(2006.8録音)
・2つのヴァイオリンとチェロのためのメヌエットとアレグロJS128(1887)(世界初録音)(2006.8録音)
ヤーッコ・クーシスト(第1ヴァイオリン)、ラウラ・ヴィクマン(第2ヴァイオリン)、タネリ・ツルネン(チェロ)
・チェロとピアノのためのテンポ・ディ・ヴァルスJS193(カレヴィ・アホによるピアノ伴奏部付)(1887)(世界初録音)(2009.5録音)
トーレイヴ・トデーン(チェロ)、フォルケ・グラスベック(ピアノ)
・ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲ホ短調JS68(1887)(世界初録音)(2006.3録音)
ヤーッコ・クーシスト(ヴァイオリン)、タネリ・ツルネン(チェロ)
・独奏チェロのための主題と変奏ニ短調JS196(1887)(2009.5録音)
トーレイヴ・トデーン(チェロ)
・チェロとピアノのためのレント変ホ短調JS76(1887-88)(世界初録音)(2009.5録音)
トーレイヴ・トデーン(チェロ)、フォルケ・グラスベック(ピアノ)
・独奏チェロのためのモデラートヘ長調(1885-89)(世界初録音)(2009.5録音)
・独奏チェロのためのマズルカト短調(1887-89)(世界初録音)(2009.5録音)
トーレイヴ・トデーン(チェロ)

青年シベリウスの力量。
例えば、22歳の時の作品三重奏曲「メヌエットとアレグロ」の爽快で清澄な調べは、モーツァルトやハイドンに範を得るものだろうか。若き作曲家の瑞々しい感性が見事に刻印される佳作。
そして、優れたアマチュア・チェリストであった弟クリスティアンのために作曲された、思いに耽るチェロ独奏による「主題と変奏」の美しさ。ここにはわずかに後年の内側を見つめるシベリウスがあるように僕は思う。

 

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