アンドルー・デイヴィス指揮BBC響のヴォーン・ウィリアムズ第4番&第5番(1992.12録音)を聴いて思ふ

昨日、光り輝く世界に抱かれたような素晴らしい体験をした。ヴォーン・ウィリアムズが私に献じてくれた交響曲をマルコム・サージェントの指揮で聴いたのだ。何と気高く、人間性に満ちた音楽だろう!感謝の念に堪えない。ヴォーン・ウィリアムズは、想像を遥かに超えるものを私にもたらしてくれた。
(1943年9月30日付日記)
神部智著「作曲家◎人と作品シリーズ シベリウス」(音楽之友社)P200

その前日、スウェーデンのラジオ局で流されたヴォーン・ウィリアムズの交響曲第5番(1943)を聴いたジャン・シベリウスの感激のほどが伝わる。果たしてこの曲は、ヴォーン・ウィリアムズの9つの交響曲にあって最も優美で旋律のわかりやすさに富む作品だ。例えば、第3楽章ロマンツァは、恋愛映画のクライマックスに使用されるような甘さを持ち、第1楽章前奏曲は、明暗の対比激しい、美しい旋律が目白押しの逸品。とはいえ、想像以上に素晴らしいのは、終楽章パッサカリア!!開放感あふれる明朗な音楽は、ベートーヴェンの「闘争から勝利へ」というモチーフに準ずるもので、シベリウスの交響曲第5番の方法とも一致し、ここにこそシベリウスは人間味を感じたのだろうと想像する。

ヴォーン・ウィリアムズ:
・交響曲第4番ヘ短調(1931-34)
・交響曲第5番ニ長調(1938-43)
サー・アンドルー・デイヴィス指揮BBC交響楽団(1992.12録音)

第二次世界大戦前夜の、不穏な空気漂う欧州で創作された、性格の異なる2つの交響曲は、いずれもがヴォーン・ウィリアムズの作曲家としての力量を示すもので、その性質が、ほぼ同じ時期にソビエト連邦で生み出されたショスタコーヴィチの交響曲第4番と第5番の関係に近いことが興味深い。

第4番は、冒頭暗澹たる(あるいは暴力的な激しい)調子で開始される。直後の、一瞬鎮まり、第2主題が提示されるあたりの抒情性が最初の聴きどころか。第2楽章アンダンテ・モデラートは、(平和を願う)作曲家の内なる心の声であり、静謐な音調から徐々に盛り上がる流れは、聴く者を圧倒する。また、第3楽章スケルツォはやはり激烈な舞踏であり、世界の不協和を称賛するようなアイロニーに満ちる。そして、おそらくバッハの「フーガの技法」を拠りどころにし、ヴォーン・ウィリアムズらしいスノッビッシュかつ雄渾な味付けの施された終楽章アレグロ・モルトは、交響曲の結論であり、アンドルー・デイヴィスの遅めのテンポによる解釈が音楽の深みをより抉り出しているように思われる。

ちなみに、晩年、ヴォーン・ウィリアムズは次のように語ったという。

バッハは時代に遅れ、ベートーヴェンは時代に先んじたが、二人とも作曲家としてもっとも偉大だった。モダニズムも保守主義も見当違いだ。何事であれ、自分には真実なものでなければならない。
~同上書P121

主義主張など知ったことではないのである。
あくまでも自分自身に正直であれとヴォーン・ウィリアムズは言うのだ。

 

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