バルビローリ指揮ハレ管のエルガー「ゲロンティアスの夢」(1964録音)を聴いて思ふ

実践なき信仰は絵に描いた餅。

誰もが安心を求める。天変地異、人的無差別犯罪、不穏な時代であるからこその皆が保険を求める時代。誰も地獄へなど行きたいとは思わない。可能なら天国へと誰もが求めるのである。

天国も地獄も、外にあるものではなく、自らの内側に存在するもの。祈ろうがお願いしようが、結局は自分自身がどういう心持ちで、どう生きるかによる。人の内には天使も悪魔もれっきとあるのである。ならば、自分自身を誤魔化さないこと、自分自身に嘘をつかないこと。

作曲家の心の内を探るのに、最重要作は宗教作品なのだろうと僕は思う。
エドワード・エルガーの、バーミンガム音楽祭からの委嘱作「ゲロンティアスの夢」(1900)。壮大で静謐な、美しい第1部前奏曲を耳にして、大英帝国の紳士的な、気高い精神の盛り込まれた音楽の虜になる。リヒャルト・ワーグナーを規範としたこの作品の、ワーグナーにあってないものは、デモーニッシュな音調であり、また、ワーグナーになくあるものはスノーヴィズム。ここにはすでに天国的愉悦しかない。このオラトリオが今一つ世界的に有名にならないのは、二元世界にあって堕天使的悪の表現が(少なくとも音楽的には)少ないからなのだろうか。

第2部前奏曲の癒し。直後、ゲロンティアスの魂の言葉は、怖れからの解放であり、悟りか。

さらに不思議なことには、誰かが私をしっかりと
その大きな手のひらで捉えて放さないのです・・・
変わることのない、おだやかな緊張感のなか、
私は自分の力で動いているわけではなく、この道を
進むべく生かされたのだと教えてくれます。
(秋岡陽訳)

リチャード・ルイスの甘く優しい歌声に感涙。

・エルガー:オラトリオ「ゲロンティアスの夢」作品38
ジャネット・ベイカー(天使、メゾソプラノ)
リチャード・ルイス(ゲロンティアス、ゲロンティアスの魂、テノール)
キム・ボルイ(司祭、苦悩の天使、バス)
ハレ合唱団
シェフィールド・フィルハーモニー合唱団
アンブロジアン・シンガーズ
サー・ジョン・バルビローリ指揮ハレ管弦楽団(1964録音)

天使と魂の二重唱「この天使は、あのすばらしい家族の一員~一筋の光があなたの行く手を告げています」の崇高美。ベイカーの深みのある声がものを言う。

この世が創られる以前から、
幾万年もの昔から、
神の玉座の周りにいた、あの天使の一員。
偉大なるものとつながりましょう、わが主、力強き創造主と。

一層素晴らしいのは、物語のクライマックスを形成する最後の場面。
天使が「アレルヤ!主の御名をほめたたえよ!」と唱じた後の、打楽器の強烈な爆発に怖れを抱き、続く、魂の愛ある懇願の勇ましさ、美しさ。

私を連れていってください、
そして、深淵なる世界に我が身を導いてください。
たったひとりの夜警が暁を待つその場で
希望のうちに待たせてください。

敬虔なカトリック教徒であったエルガーの、最高傑作のひとつ。
音楽とは、そもそも信仰の証なのだ。サー・ジョンの確信に溢れる、そして愛ある指揮がまた見事。

 

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