ムラヴィンスキー指揮レン・フィルのチャイコフスキー「眠れる森の美女」(1948録音)を聴いて思ふ

1889年5月26日夜8時、下書き完了。神に感謝!10月に10日間、1月に3週間、そして今回1週間、つまり全部で約40日だ。
森田稔著「ロシア音楽の魅力―グリンカ・ムソルグスキー・チャイコフスキー」(東洋書店)P223

バレエ「眠れる森の美女」は、マリインスキー劇場のイワン・ウセヴォロジュスキーの委嘱によって生み出された充実の名作だが、初演直後の新聞批評が興味深い。

バレエではなく妖精物語である。そのすべてはディヴェルティスマンに終始した。チャイコフスキーの音楽は演奏会用作品でまじめ過ぎ、重厚過ぎた。
「作曲家別名曲解説ライブラリー8チャイコフスキー」(音楽之友社)P89

チャイコフスキーの作品は、得てして最初難癖が付く。
マリウス・プティパの振付によるバレエの初演が決して失敗だったわけではない。しかしながら、3時間を超える長尺の舞台は、それを享受するのに観客に相当の忍耐を強いたのだろうと思う。実際、物語はともかくとして音楽は、旋律的だけれども、彼の他の作品に比較して多少晦渋な印象は否めない。なるほど、新聞評にあるように、まさにそれはあまりに巨大で真摯な演奏会用作品として機能する代物だ。

だからこそ、強力な集中力を要求する、感傷のない極めて厳しい外観を持つムラヴィンスキーの演奏(抜粋)が一層重要な役割を持つのである。妖精物語どころか、標題性すら拒否する冷徹な絶対「喜遊」音楽。

・チャイコフスキー:バレエ音楽「眠れる森の美女」作品66(抜粋)(1948.3-4録音)
序奏
プロローグより
—第2番 踊りの情景
—第3番 パ・ド・シス:序奏とアダージョ~アレグロ・ヴィーヴォ
—第4番 フィナーレ
第1幕より
—第6番 ワルツ
—第8番 パ・ダクシオン:バラのアダージョ
第2幕より
—第17番 パノラマ
第3幕より
—第23番 パ・ド・カトル
—第23番 ヴァリアシオンII:銀の精
—第24番 パ・ド・カラクテール(長靴をはいた猫と白猫の踊り)
—第25番 パ・ド・カトル:ヴァリアシオンII:青い鳥とフロリーネ姫
—第28番 パ・ド・ドゥ:アダージョ
・ニコライ・オヴシャニコ=クリコフスキー:交響曲第21番ト短調(1954.4.3録音)
エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

繰り返し聴けば聴くほどその魔力の虜になる。音楽はいつの間にか永遠のものとなり、時間を忘れて僕たちは彼の世界に引き込まれるのだ。プロローグの序奏から音楽は激しくうねり、また静かに祈りを呈する。相変わらずのレン・フィルの金管の威力は恐るべし。
プロローグ第2番「踊りの情景」のいかにもチャイコフスキーらしい解放的な甘い旋律も、ムラヴィンスキーの手にかかっては何とも意味深。
あるいは、第1幕第6番ワルツのエネルギーも並みでなく、単なる舞踊音楽で終わらない。続く「バラのアダージョ」の、冒頭ハープのカデンツァに癒され、あまりに美しく抒情的な旋律の奥に、悲しくも悪魔的な力漲り、その辺りの表現はムラヴィンスキーらしい。
最高とすべきは、第2幕第17番「パノラマ」!!ちなみに、終幕第28番「パ・ド・ドゥ」でトランペットによるファンファーレ主題は、シベリウスの第2交響曲終楽章の有名な主題にそっくり。
なお、クリコフスキーの交響曲は、ソ連の現代作曲家ミハイル・ゴールドシュテインの、自作を批判した評論家の鼻を明かすためのまったくの創作らしいが、佳曲。

ロシア的憂愁を湛えた旋律を「無慈悲に」歌わせたらムラヴィンスキーの右に出る者はいない。上っ面の感情を排するも通底する神秘的感覚こそ指揮者の本懐。シンフォニック「眠れるの森の美女」の素晴らしさ。

 

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