作曲家の恋物語・第1夜

101122roppongi.jpg平日の19:00開演のコンサートは、余程の有名人じゃないと満席にならないのではと心配していたが、それも杞憂に終わった。告知を出すなり早々と埋まったのが22日の六本木公演。直前までチケット希望の問い合わせまであり、お断りをしなければならなかったことが心苦しい。わずか44席とはいえ、地の利というのはやっぱり大事なのかも。結局、当日も仕事の関係でいらっしゃれなかったお客様はわずか2名で、とてもインタラクティブで雰囲気の良いリサイタルだった。

早わかりクラシック音楽講座の一環とはいえ、あまり僕が話し過ぎるのも良くないし、とはいえほとんどいてもいなくても一緒という印象では逆効果だし、そのあたりのバランスに難儀したが、前半後半いずれも10分少しお話をさせていただき、最後にいただいた感想を読ませていただくと、それがまた良かったということだったのでほっと一安心。

「解説があっての演奏、より深く楽しむことができました」
「作曲した背景を知ってから聴くのと、ただ聴くのとではこんなにも感じ方が違うのかと感動しました」
「作曲家の恋の話を聞けて、それを感じながら聴くことができました」

早わかりクラシック音楽講座4周年記念コンサート
「作曲家の恋物語」
~ショパン&シューマン生誕200年によせて~
2010年11月22日(月)19:00開演
六本木シンフォニーサロン
・J.S.バッハ:パルティータ第5番ト長調BWV829
・シューマン:ピアノ・ソナタ第2番ト短調作品22
・ショパン:舟歌嬰ヘ長調作品60
・ショパン:ノクターン第20番嬰ハ短調(遺作)
・ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第32番ハ短調作品111
愛知とし子(ピアノ)、岡本浩和(ナビゲーター)

六本木シンフォニーサロンの特長は、とにかく間近で音楽を直接に堪能できるということ。愛知とし子の打鍵は、基本的に轟音激しいものだから、普段の彼女しか知らない人々は、うって変わって鬼神のようになる(笑)彼女の演奏姿に一様に驚くのだが、一方の囁くようなピアニシモも極めてきれいに響き、そのコントラストを十分に楽しんでいただけたのではないかと思う。どうやら人気はベートーヴェンだったようで、第1楽章の苦悩から第2楽章の無の境地に至る、その心象が随分きっちりとご理解いただけたようで、やっぱり事前の解説の重要性がここでもよくわかる。この最後のソナタはそうそう愛好家でもない一般の方々に受け容れられるものではないと思っていたが、さにあらず。涙さえ流れてきたという方もいたのだから、よほど音響効果抜群だったのか・・・。いや、愛知とし子の演奏がそれだけ素晴らしかったということだろう。終演後の打ち上げの時、好事家のひとりからベートーヴェンのツィクルスに挑戦してくださいという要望をいただいたが、そろそろそういう時期なのかも。ピアニスト本人も結構やる気になっているのでそれはそれは一層の楽しみ。

さて、週末は成城で昼夜合わせて2回のリサイタル。六本木以上の音楽性と迫力で勝負、というところか・・・。

※ちなみに、シューマンのソナタも若き作曲家のクララへの情熱が見事に音化された演奏で、とても良かった。


4 COMMENTS

雅之

こんばんは。
コンサートの第一夜の大成功、おめでとうございます。これはいよいよ27日が楽しみで楽しみで仕方がなくなりました。
愛知とし子さん竹を割ったような真っすぐな性格って、絶対にベートーヴェンに最適だと確信しています。
・・・・・・(ベートーヴェンの『エロイカ変奏曲』は)、変ホ長調の主和音で開始し、『英雄交響曲』の終楽章と同じバス主題が提示され、三回変奏されたあと優美な旋律主題があらわれ、十五の変奏とフーガがつづく。
 とりわけバス主題は、主音とドミナント音(主音から五度上の音。ハ長調ならソ)だけの、これ以上シンプルなモティーフもないのだが、それだけに異なる性格を持つ音の弾きわけ、緊張・弛緩の対立構造など、基本的な音楽づくりが問われる。
(中略)
「ベートーヴェンは、ドミナントの精神がとても好きなんです」と、廻(由美子)さんは言う。
―――ガーンと来る。どちらかというと、モーツァルトはサブドミナント(ハ長調ならドファラ)な感じがするわけ。フォーレとかシューベルトとかもそう。
 ドミナントは文字通り「支配する」。つまり、強力な力でトニック(主和音)へとひっぱっていく。しかし、サブドミナントはそういう作用がないために、なんとなくふわんと浮かんでいるような感じがする。
―――ドミナントの作曲家っていうのは、グッとお腹の底に来る感じがして、すごく好き。勝手に決めているだけなんですけれどね。バルトークはね(とここでハミングしてみせる)、ドミナントが来ると世界がガッと、次元が変わってくるのね。ベートーヴェンもそうでしょう。本当にね、まいっちゃう。どうしても好きなのね。
 ベートーヴェンはほとんど駄作がなく、本当にすごい、と私たちは共感しあう。
―――そして、どの曲も、どうしたってベートーヴェンなのね。あの後ろ向きにならないところがいいのかな。どんどん、カッ、カッ、カッて前進のみなの。その度に違う扉を開けていくじゃない。そこがちょっとドストエフスキーの格好よさと似ているかも。・・・・・・青柳いづみこ著 「我が偏愛のピアニスト」中央公論社 124~125ページ 廻由美子さんについての項より
http://ondine-i.net/hyo-/s-hyo-74.html
愛知さんの演奏も、廻さんの表現をお借りすれば、「グッとお腹の底に来る感じ」「あの後ろ向きにならないところがいい」「どんどん、カッ、カッ、カッて前進のみ」「その度に違う扉を開けていく」・・・、そうベートーヴェンの音楽についての形容がそのまま当てはまると思います。どう考えても絶対にベートーヴェン、バルトーク系の適性が大きいです。そして、上記青柳さんの本に登場するどの日本人ピアニストよりも(世界中のどんな名ピアニストよりもと言い換えてもいい)、私が今最もベートーヴェン演奏を聴いてみたいと渇望しているピアニストなのです。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
>愛知とし子さん竹を割ったような真っすぐな性格って、絶対にベートーヴェンに最適
そうかもですね。クソ真面目でかつ性急なところは特にそうかもしれません(笑)。それと、ご紹介の廻さんの表現、おっしゃるようにそのまま愛知とし子に通じますね。
>私が今最もベートーヴェン演奏を聴いてみたいと渇望しているピアニストなのです。
それはそれは(笑)。27日のマチネは相当なプレッシャーの中で弾かなきゃいけなくなりますから、このコメントは本人が見ないように伏せておきましょうか?(笑)
いずれにせよまたお会いできることを楽しみにしております。

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アレグロ・コン・ブリオ~第3章 » Blog Archive » ベートーヴェンの作品110

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