フィンリー&ドレイクのラヴェル歌曲集(2008.7録音)ほかを聴いて思ふ

元来、世界は喜び。
思わず踊り出したくなるような希望に満ちている。温かい。人と舞踊とは自ずと絆で結ばれているのである。

「炉のほとり」
炉のほとり、ほのかなるランプの灯影、
そことなく愛しきもののまなざしに見惚れつつ
こめかみに指当つるもの思い、
湯気あぐる茶をすすり、書ふせて
楽しくも更け行く宵のはてしかな。
堀口大學訳「ヴェルレーヌ詩集」(新潮文庫)P115

モーリス・ラヴェルの「ラ・ヴァルス」。妖しき色香の発露。
最も優れたるは、アンドレ・クリュイタンス指揮パリ音楽院管弦楽団による名盤。録音から60年近くの時を経ても色褪せない、これにまさる「ラ・ヴァルス」に僕はいまだかつて出逢ったことがない。

ラヴェル:
・ボレロ(1928)
・スペイン狂詩曲(1908)
・ラ・ヴァルス(1920)
アンドレ・クリュイタンス指揮パリ音楽院管弦楽団(1961.11.27, 29&30録音)

生と死が一体であることをそそる傑作群。生きることは死ぬことであり、また死ぬことは良きることでもあることを知らしめる。所詮肉体は乗り物に過ぎぬ。魂で感じようではないか。

詩と音楽の舞踏。ラヴェルの歌曲を言葉にするならそういうことだ。
ポール・モランの詩によるラヴェル最後の作品「ドゥルネシア姫に思いを寄せるドン・キホーテ」の明朗な歌。ここには悲しい踊りがある。

ラヴェル:歌曲集
・歌曲集「博物誌」(ジュール・ルナール詩)(1906)
・ロンサールここに眠る(ロンサール詩)(1924)
・ドゥルネシア姫に思いを寄せるドン・キホーテ(ポール・モラン詩)(1934)
・暗く果てしない眠り(ポール・ヴェルレーヌ詩)(1895)
・激しい風が海のかなたから(アンリ・ド・レエニ詩)(1906)
・草の上で(ポール・ヴェルレーヌ詩)(1907)
・民謡集(1910)
・おもちゃのクリスマス(ラヴェル詩)(1905)
・クレマン・マロの2つの碑銘(1896, 1899)
・5つのギリシャ民謡(1909)
・2つのヘブライの歌(1914)
ジェラルド・フィンリー(バリトン)
ジュリアス・ドレイク(ピアノ)(2008.7.11-13録音)

空ろなフランス語の響きに、いかにも曖昧な雰囲気を醸すラヴェルの音楽。フィンリーの澄んだバリトンに、暗い印象のドレイクの伴奏ピアノ。世界は相対にあり、対になるものが正反対の世界の具現であることを示すよう。どの世界も互いに切磋琢磨し、それぞれの魂の成長を喚起するための手段なのだということがわかる。

暗く果てなき死のねむり、
われの生命に落ち来たる。
ねむれ、わが望み、
ねむれ、わが欲よ!
~同上書P207

生きることとは我欲であるのだとヴェルレーヌは言い切った。
それにしてもラヴェルの音楽は、一切の欲を捨て去った静かで透明、中庸な印象。
死は終わりでなく(元に戻ることの)始まりであるという・・・。
何よりジュリアス・ドレイクのピアノには、歌唱以上に言葉を具現化する力がある。

 

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