ヘレヴェッヘのマーラー「大地の歌」(シェーンベルク編曲)(1993.4録音)ほかを聴いて思ふ

マーラーは、ハンス・ベトゥゲの独訳詩をもとに交響曲「大地の歌」を生み出したが、第1楽章は李白の「悲歌行」を軸に、マーラー自ら自由に改変したものだ。曲は厭世的な死生観を存分に発揮するものだが、そこには間違いなく楽観もある。
繰り返される、「生は暗く、死もまた暗い」という楽節が身に沁みる。

このフレーズは、我々の魂は目に見えないところからやって来て、目に見えないところに帰って行くということを示唆する。すなわち生と死は一体だということだ。

始まりがあって終わりがある。いや、始まりもなければ終りもない(メビウスの帯)。
あまりに出来過ぎのようだが、ジョン・レノンは、「まるで生まれ変わったような気分だ」と歌い、突然この世を去った。

“Double Fantasy”も“Milk and Honey”も、リリース当初から違和感の拭えない、ジョンにしては正直「痛い」アルバムだった。しかし、直後の彼の死をきっかけに幸か不幸か注目された。僕は何度も繰り返し聴いた。

ちなみに、“Milk and Honey”の、アナログ盤の帯には次の字が躍る。

魂の鼓動が聴こえる・・・ジョンは生きていた!
このアルバムは「ダブル・ファンタジー」後の、ニューアルバムとして録音された真のオリジナル・アルバムです。

ヨーコとのコラボレーションによって創出された2枚のアルバムには確かに魂の鼓動が刻印される。少なくともジョンがもはやこの世にいないことがわかっていた僕たちは、言われずとも「そのように」アルバムを聴いた。もちろんその姿勢は、今でも変わらない。
ただし、リリースから40年近くを経ても、やっぱりヨーコの楽曲は不要(残念ながら)。

・LENNON 4CD SET (1990)

生誕50年、没後10年を記念して発表された4枚組ボックスの4枚目は、ヨーコ抜きの“Double Fantasy”と“Milk and Honey”が(アルバム未収録の”Every Man Has A Woman Who Loves Him”も合わせ)元の曲順通りに収められている。僕は重宝した。何と言っても最後の、デモ録音の”Grow Old With Me”の赤裸々な歌が堪らない。

ちなみに、“Milk and Honey”(25MM0260)に封入された解説書の、ヨーコ・オノによるジョンへの誕生日メッセージが魂にまで響く。

1981年から83年にかけて、ショーンと私は、さしずめ雪原の中に二人して立っている思いでした。自らを“親しい友人”と称する人間の形をした狼たちにとり囲まれていたのです。その一方で私たちの目の前には、暴行され、神聖を汚されたジョンのなきがらがありました。暗黒の森の向こうに、私たちには美しい虹と、遠くから愛をもって私たちに呼びかけてくれる人々の姿が見えました。しかし、その人々に対して、何が起こっているのかを知らせる方法がなかったのです。そしてショーンと私は、あなた方とともに私たちの歌を分ちあうことによって、その虹を私たちの手元に引き寄せようと決意したのです。
誕生日おめでとう、ジョン、私たちの愛に神の祝福がありますよう。
1983年10月9日 ニューヨーク市にて Y.O.
(武内邦愛訳)

魂だけになったジョンの歌声が、人々を癒す。
分かち合うことを決意したヨーコの勝利だと思う。

閑話休題。

おそらくは私的演奏協会のコンサートで採り上げるためだろう、1920年、アーノルト・シェーンベルクは「大地の歌」の、編成を大幅に縮小(13人!)しての編曲を試みた。それは、打楽器がピアノで代用され、マンドリンも省略された、あくまで歌唱を前面に押し出した透明感のあるアレンジだったが、作業は頓挫。結局、1983年にライナー・リーンによって補筆完成されるまで陽の目を見ることはなかった。

・マーラー:交響曲「大地の歌」(シェーンベルク1920編曲/リーン1983補筆完成版)
ビルギット・レムメルト(アルト)
ハンス・ペーター・ブロホヴィッツ(テノール)
フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮アンサンブル・ミュジーク・オブリーク(1993.4録音)

シェーンベルク/リーンの編曲の妙。あの世とこの世の両方を描く、浮遊感溢れる音響に言葉がない。ヘレヴェッヘの指揮もアンサンブルの演奏もさることながら、レムメルト、ブロホヴィッツの歌唱がいずれも素晴らしい。

李白の詩に基づく第5楽章「春に酔える者」での、ブロホヴィッツの巧さ。アンサンブルは見事に歌に寄り添い、しかし、ここぞというときに弾け、歌う。終楽章「告別」の清澄な音!レムメルトの情感こもった歌は、時間も空間も超越する。生と死は終りなく繰り返す。

ジョン・レノン、78回目の誕生日に。

 

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