生誕160周年記念 イザイ音楽祭ジャパン2018

雨の上野でウジェーヌ・イザイ。
どこか見知らぬ遠い世界に誘われた印象。音楽は世界を広げてくれる。

発信していると必要な情報は自ずと舞い込むようだ。
4年も前に書いた記事に件の音楽祭の情報をいただいたのは8月のこと。フィリップ・グラファンの実演はずっと触れてみたいと思っていたから願ったり叶ったり。素敵な時間だった。

イザイの音楽は、人間の本性に直接的に働きかけてくるような、不思議な刺激がある。弦楽四重奏を伴奏にヴァイオリン・ソロが唸る、エリカ・ヴェガ編曲版ソナタ第5番の幻想。音楽は縦横に飛翔し、原曲にある、バッハに負けずと劣らずの孤高の音調が和らぎ、第1楽章は「曙光」という名の通りの希望の響きが会場を蔽った。続く第2楽章「田舎の踊り」の愉悦に思わず笑み。そして、「冬の歌」。加藤知子の音色は相変わらずの骨太の、揺るぎない、しかし深みのあるもので、水本桂のニュアンス零れる伴奏と合わせ、楷書体の、美しい世界を印象付けた。あるいは、岡本侑也による「瞑想曲」の安寧の調べは癒しそのもの。

前半最後はショーソンの名曲「詩曲」のピアノ五重奏伴奏版。グラファンの独奏は実に激しい。勢いあるフレーズと静けさを全うするフレーズの、移り変わりの巧みさと、祈りの瞬間の恍惚感が堪らない。

生誕160周年記念 イザイ音楽祭ジャパン2018
2018年10月20日(土)19:15開演
東京文化会館小ホール
・イザイ:無伴奏ソナタ第5番作品27-5(1924)(エリカ・ヴェガ編曲2018)(イザイ音楽祭2018委託作品)
フィリップ・グラファン(ヴァイオリン)
加藤知子(ヴァイオリン)
小林美恵(ヴァイオリン)
今井信子(ヴィオラ)
岡本侑也(チェロ)
・イザイ:ヴァイオリンとピアノのための「冬の歌」作品15
加藤知子(ヴァイオリン)
水本桂(ピアノ)
・イザイ:チェロとピアノのための「瞑想曲」作品16-5(1913)(日本初演)
岡本侑也(チェロ)
水本桂(ピアノ)
・ショーソン:詩曲作品25(1896)(ピアノ五重奏版)(日本初演)
フィリップ・グラファン(ヴァイオリン独奏)
加藤知子(ヴァイオリン)
小林美恵(ヴァイオリン)
今井信子(ヴィオラ)
岡本侑也(チェロ)
水本桂(ピアノ)
休憩
・イザイ:無伴奏ヴィオラのための序奏(日本初演)
今井信子(ヴィオラ)
・ヴュータン:無伴奏ヴィオラのための奇想曲
今井信子(ヴィオラ)
・イザイ:無伴奏ソナタ遺作(日本初演)
フィリップ・グラファン(ヴァイオリン)
・ドビュッシー:弦楽四重奏曲ト短調作品10
フィリップ・グラファン(ヴァイオリン)
小林美恵(ヴァイオリン)
今井信子(ヴィオラ)
岡本侑也(チェロ)

10分の休憩を挟み、後半は会場の空気が見事に一変する神業。
今井信子のソロは相変わらず絶品。日本初演となるイザイの「序奏」の慈しみ、そして、イザイに献呈されたアンリ・ヴュータンの「奇想曲」の神々しさ。ここで明らかに波動が上がったことがわかる。
続くイザイの無伴奏ソナタ遺作は、わずか数ヶ月前に第6番のスケッチ帳から発見された新曲。当然日本初演となるが、グラファン自身の、新発見は嬉しいものの、あまりの難曲で悲鳴を上げるヴァイオリニストが多いのではという前説が会場の空気を緩めてくれた。しかしその音楽は、実に厳しいもの。超絶技巧が惜しげもなく披露され、聴衆を沸かせた。
最後はドビュッシーの弦楽四重奏曲。
まるで常設のカルテットの如く自然体の、そして、ドビュッシーの魂までをも示威する名演奏。第1楽章の白熱、第2楽章の滑稽、しかし、白眉は第3楽章。静かな官能に涙がこぼれた。終楽章も息の合った絶品。グラファンの繊細だが、しかし完成ほとばしる音、今井信子の内省的なふくよかな音に何より感銘を受けた。

過去の名演奏家たちがこぞってウジェーヌ・イザイを賞賛する。
その演奏は相当に凄かったようだ。聴いてみたかった。

 

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