スコット・ロスのスカルラッティ ソナタ全集(1984-85録音)Kk20-Kk30ほかを聴いて思ふ

初期発動の圧倒的パワーとエネルギー。
ポリリズムの洪水。
キング・クリムゾンが復活再生する直前の、おそらくいまだディシプリンを名乗っていたであろう時期の壮絶なライヴ(最初のギグ!)。音の塊は、メンバー各々の驚異的なテクニックにより精緻なアンサンブルを生成し、それまでにはなかった「新しい音」を紡ぎ出そうとする意志によるものだということが即座に理解できるもの。生命力溢れるその音楽は、やはり鼓動とゆらぎの中にある。それは、もともと発表する予定のなかった記録なのだろう、決して鮮明とは言えない音質にもかかわらず、放射される熱量の半端なさ。40年近くを経てあらためて耳にしたとき、あの時期のキング・クリムゾンの再結成は、必然であったように思われる(ロバート・フリップのインスピレーションは常に正しいのだ)。

・King Crimson live at Moles Club Bath (1981.4.30Live)

Personnel
Adrian Belew (guitar, vocal)
Robert Fripp (guitar)
Tony Levin (Stick, bass guitar)
Bill Bruford (drums, percussion)

小さなクラブでの、わずかな観客を前にしてのキング・クリムゾンの演奏が直接的でとても熱い。たぶんメンバーは皆、人前で演奏したくて堪らなかった、そんな状態だったのだろうと想像する。演奏中の静けさは、観客が感激のあまり金縛りに遭っていただろうことが即座に理解できるほどのもの。

でもね、完璧な場所などどこにもないさ。そこの観客の態度は常に素晴らしかったし、クリムゾンのショウでは僕たちの上方と横に設置しておいた僕のカメラでいい写真が撮れた。バンドの写真だけでなく、バンドの間をちょこまか走る連中の写真も撮れていた。後にこの時の写真を調べていたら(そのうちの1枚は僕のツアー写真集に載せていた)、最前列に後のティアーズ・フォー・フィアーズのメンバー数人がいたことが判明した。
(2000年5月16日、トニー・レヴィン、対訳:川原真理子/松崎正秀/大田大輔)

後半、”The Sheltering Sky”から”Indicipline”、そして”Larks’ Tongues In Aspic Part 2”という怒涛のインスト攻撃に聴衆は間違いなく言葉を失ったことだろう。恐るべき完成度。クリムゾンの方法は、1969年の当初から何ら変わらず、ライヴありきで、スタジオ録音アルバムはあくまで名刺代わりの代物だということだ。
ここには音楽を創造する喜びがある。

そして、もうひとつあそこにも喜びに溢れる録音があった。
ポリフォニーとホモフォニーの統合たるドメニコ・スカルラッティのソナタ。
スコット・ロスのインタビューを引く。

唯一の不快な瞬間というのは、すべてが終わった時だよ。最後のソナタを弾き終わった時は、それはもう身がよじれるような苦痛だったよ。録音の間一貫して、僕はある挑戦から次の挑戦へと挑み続けた。技術的な問題はあっという間に解決していった。それからここで言っておかなければならないのは、僕はたった一人で努力していた訳じゃないということさ。僕はすぐに録音技術者たちと親密になった。特にアラン・ドゥシュミンは大半の録音を実際に行った人物で、アラン・ド・シャンブレは全体の責任者だった。この音楽の山の前に立ったとき、11 巻もあったわけだけれども、それから 555 曲のソナタの最初の曲を録音した時に、ちょうど氷水で満ちた湖へ飛び込んでいくような感覚を覚えたと言わざるを得ない。でもそれから後は、終わりの無いクレッシェンドの中で生きていたようなものさ。

ドメニコ・スカルラッティ:ソナタ全集
・ソナタホ長調Kk20(L375/P76)
・ソナタニ長調Kk21(L363/P77)
・ソナタハ短調Kk22(L360/P78)
・ソナタト短調Kk23(L411/P79)
・ソナタニ長調Kk24(L495/P80)
・ソナタ嬰ヘ短調Kk25(L481/P81)
・ソナタイ長調Kk26(L368/P82)
・ソナタロ短調Kk27(L449/P83)
・ソナタホ長調Kk28(L373/P84)
・ソナタニ長調Kk29(L461/P85)
・ソナタト短調Kk30(L499/P86)
スコット・ロス(チェンバロ)(1984.6-85.9録音)

いつの時代も「新しいもの」は決して古びない。一つの楽器が延々と音楽を生みだす様。300年も前に作曲された音楽が、ロスのチェンバロによって美しい輝きを放つ。
34枚組の2枚目をひもとく。
淡々と演奏されるも、同じテンションが一つとしてない奇蹟。冒頭、ホ長調Kk20から音楽はあまりに生き生きと跳ねるのだ。

さらに、古典に触れた後のキング・クリムゾン。
先のギグから間もなく録音されたアルバムは、今でも滅法新しい。

機械的で前向きだが不安定なキング・クリムゾンを再結成させたのは意図的にではない。
(ロバート・フリップ)
エリック・タム著/塚田千春訳「ロバート・フリップ―キング・クリムゾンからギター・クラフトまで」(宝島社)P173

果たしてこのバンドはキング・クリムゾンを名乗って正解だったのか、はともかくとして、”Elephant Talk”から僕は素晴らしい音楽だと感じていた。そして、30余年を経た今も、否、あるいはその時以上に素晴らしさと美しさを感じるのである。

・King Crimson:Discipline (1981)

Personnel
Adrian Belew (electric guitar, guitar synthesizer, lead vocals, voice loops)
Robert Fripp (electric guitar, guitar synthesizer, devices)
Tony Levin (Chapman Stick, backing vocals, bass)
Bill Bruford (drums, slit drum)

“The Sheltering Sky”は心底名曲。知性の塊であるフリップのギターとアンニュイなニュアンスを湛えるブリューのギターの絡みは何て官能的なのだろう。バックでひたすら(鼓動の如く)打ち鳴らされるブルーフォードのパーカッションがまた陶酔を一層喚起する。

メンバーがどう言おうと、また何をしようと、キング・クリムゾンは独自の生命を持つ。興味をそそるような考え方は部分的に、宗教のように重要となる。1974年にグループの存在が絶えた後もバンドは興味深くとらえられ続けられた。4月の第1週の最初のリハーサルで、私はこのエネルギーがバンドのどこかに流れているのを感じ、もし我々が望めばそれを使うこともできるとわかった。
(ロバート・フリップ)
~同上書P174

血沸き肉躍るリズムの饗宴こそ音楽の本懐。

 

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