ヒリヤード・アンサンブルのイザーク ミサ・パスクァーレほか(1981.12録音)を聴いて思ふ

知人から送っていただいた記事が目を引いた。

つい最近まで、私たちは確かな物語を共有して生きてきた。科学は信頼できる心棒を打ち込み、私たちを明るい未来へと誘ってきた。しかし、どうやら現代の科学はその力を失っているらしい。

物語が人々を結び付けるためには、集団規模が大きく、メンバーシップが安定していることが必要になる。仲間を信頼し、共感する能力も不可欠だ。

以来ずっと、人類は共通の物語を生きてきた。それは自然との豊かな交流によって支えられてきた。しかし今、科学は自然を征服し、人為の力による世界を人々に与えようとしている。情報技術によって、サイバースペースに自然に基づかない世界が繰り広げられ、人々はそれを好きなように解釈するようになった。確かな物語によって人々が結びつけられなくなったのだ。
~2018年11月10日付朝日新聞「科学季評」「真実につながる『物語』を」

霊長類学者であり、京都大学総長である山極寿一さんは、リアルな、そして大自然と共存する物語の回復には、言葉だけに頼らぬ、感覚を重視した、(自然に対しても、また人間に対しても)現実的に安定した関係を取り戻すことが今や必須だというのだろう。それは、僕たち人間が、いわば科学と信仰のバランスを取り戻すこととも同義なのだと思う。

フィレンツェのメディチ家、神聖ローマ帝国のマクシミリアン一世の宮廷などで活躍したフランドルの作曲家、ハインリヒ・イザーク。彼は、数多くの教会音楽のほか、ドイツ語やフランス語、あるいはイタリア語などあらゆるテキストに音楽を付した世俗歌曲を生み出した多作家。

ヒリヤード・アンサンブルによる、言葉に頼らない、そして感覚を芯から喚起する聖なる音楽と、一方、言葉を知らねば理解不能な世俗音楽の交感。

ハインリヒ・イザーク:
・6声のモテット「聖母マリア祝日のための聖歌」
・6声の「ミサ・パスクァーレ」
・4声のモテット「クイス・ダビト・パーチェム・ポプロ・ティメンティ」
・4声の歌曲「エス・ヘット・アイン・バウア・エイン・トフターライン」
・4声の歌曲「エス・ヴォルト・エイン・ミトライン・グラーセン・ガン」
・4声の歌曲「グライナー、ツァンケル、シュネップフィッツァー」
・3声のシャンソン「私は恋に落ち」
・3声のマドリガル「ファンミ・ウナ・グラーティア・アモーレ」
・ラ・モルラ(ハンス・ニュージトラーによるリュート編曲)
・4声のマドリガル「ネ・ピウ・ベッラ・ディ・クェステ」
ヒリヤード・アンサンブル
ダイヴィッド・ジェームズ(カウンターテナー)
ポール・エリオット(テノール)
レイ・ニクスン(テノール)
ポール・ヒリアー(バス)
ケース・ブッケ・コンソート(1981.12.12-18録音)

透明さと清澄さを有する聖なるモテットに、不思議な色香を発する世俗の歌曲。
そこには真実につながる「物語」がある。

 

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