ジョナサン・ノット指揮東京交響楽団第666回定期演奏会

ツンドラ、砂漠、ジャングル。大自然の創りし壮観な風景。
一方で、資本主義、戦争、革命。人間が生み出したある意味、迷い。
巨大なアメリカ大陸に存する自然と人間社会の拮抗を音化したエドガー・ヴァレーズの傑作に卒倒した。
これはどうしても生の音を、しかも間近で振動を体感せねばならぬと僕は直感した。もはや長らく座っていなかったサントリーホールの1階最前列の席を確保した。震えた。

音楽の源泉は呼吸であり、また鼓動であることを思い知った。
大宇宙の鳴動に突如として現出するサイレンの音。決して相交わることのない音と音がぶつかり、信じられない大音響を放つかと思えば、小さな音でミクロの世界を形成する妙味。僕は黙って、そして息を凝らし、その時間を過ごした。

チューニングが終わると、徐に会場は暗転し、フルート独奏による「密度21.5」が始まった。何だか東洋的な、尺八にも似た、神韻縹緲たる音色が会場を支配した。なるほど、精霊を降ろし、安寧を喚起する相図のようだ。そのまま次の「アメリカ」になだれ込む。陰と陽の葛藤、暗と明の混淆。爆発する、また、地鳴りのように揺れる。一心不乱に指揮するジョナサン・ノットの姿に感動した。ヴァレーズは天才だ。そして、両曲を間髪入れずにプログラミングしたそのセンスに畏れ入った。

東京交響楽団第666回定期演奏会
2018年12月15日(土)18時開演
サントリーホール
甲藤さち(フルート)
水谷晃(コンサートマスター)
ジョナサン・ノット指揮東京交響楽団
・ヴァレーズ:密度21.5(無伴奏フルートのための)
・ヴァレーズ:アメリカ(1927年改訂版)
休憩
・リヒャルト・シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」作品40

今宵また、シュトラウスの官能に僕は酔いしれた。ヒロイックなホルンの咆哮に度肝を抜かれた。音楽は見事に流れ、個々の奏者の奏する音楽はニュアンス豊かで色香たっぷり。第3部「英雄の伴侶」での、独奏ヴァイオリンの可憐さ、謙虚さ、美しさ。あるいは、第4部「英雄の戦場」における舞台裏での金管のファンファーレの巧みさ!何より東響の緊密なアンサンブルが織り成す、激烈さと人間味溢れる音楽に思わず感謝の念を覚えたくらい。そして、過去の名曲の一端が垣間見える第5部「英雄の業績」での、ノットの唸り声とともに奏される音楽の力!
奏者は懸命に音楽を奏でる。ノットは忘我の境地で棒を振る。最後の「英雄の引退と完成」にある、平和の導きと、コーダの突然の大音量の対比。

ヴァレーズの世界は、いわばマクロ・コスモスの顕現。
片やシュトラウスの世界は、いわばミクロ・コスモスの顕現。二つが一つにつながるとき、強力な磁場が発生し、観客を感動の坩堝に巻き込んだ。
良かった。とても良かった。

 

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