シルヴェストリ指揮ボーンマス響のシベリウス フィンランディア(1968.1録音)ほかを聴いて思ふ

枠をはみ出す思念。
興奮の坩堝。
コンスタンティン・シルヴェストリの演奏を、一言で表すならそういうことだ。

ルーマニア人は、本来、困っている人がいたら助けずにはいられない国民性、底抜けに明るく、情熱的なラテン気質で、とても親しみやすい人たちらしい。なるほど、シルヴェストリの音楽の背後に蠢くものは、ルーマニア人気質の最たるもの。だからこそそれは、無限に僕たちの感性を刺激するのかも。

ジョルジュ・エネスコのルーマニア狂詩曲は、シルヴェストリの十八番。
見通しの良い全体観ながら、瞬間の音響は勢いあり、前のめり。エネスコの音楽に心酔する指揮者にウィーン・フィルハーモニーが柔らかな音を奏で、見事に感応する。文字通り「狂ったような官能」がここにはある。
そして、爆演というべき「フィンランディア」の激烈な強音と、颯爽と沈む弱音に、彼の生命の灯が1年余り後に消えることになろうとは、誰が想像したことだろうか。シルヴェストリの素晴らしさは、例えば(闘争の主部と再現部に挟まれた)中間部「フィンランディア賛歌」のあの懐かしくも美しい旋律から、平穏な、安心の曲想をあくまで自然体で描き出すところ。恣意的な怪演だけが彼の方法ではないのだ。

・エネスコ:ルーマニア狂詩曲第1番イ長調作品11-1
コンスタンティン・シルヴェストリ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1959.1.27-28録音)
・シベリウス:交響詩「フィンランディア」作品26(1968.1.5-7録音)
・エルガー:序曲「南国にて(アラッシオ)」(1967.9.7録音)
セドリック・モーガン(ヴィオラ)
コンスタンティン・シルヴェストリ指揮ボーンマス交響楽団
・ヴォーン=ウィリアムズ:トマス・タリスの主題による幻想曲
ジェラルド・ジャーヴィス(ヴァイオリン)
ロバート・グロウコット(ヴァイオリン)
セドリック・モーガン(ヴィオラ)
アラン・ターナー(チェロ)
・ヴォーン=ウィリアムズ:スズメバチ序曲
コンスタンティン・シルヴェストリ指揮ボーンマス交響楽団(1967.9.5-6録音)

エルガーの「南国にて」は、金管の咆哮が煩くならず、何と魂にまで響く音であることか。特に、ヴィオラ独奏を伴う中間部のように、豪快な音調の中にふと現われる甘い静寂こそ、この人の音楽性の神髄。
そして、ヴォーン=ウィリアムズの「タリス」幻想曲の素晴らしさ!重厚な弦楽器の合奏が、何と清澄に、何と暗く、しかし、何と深味をもって響くことか。

音楽は、よく言われるように、民族と国語を異にする人たちにも感情伝達の可能な(翻訳の必要のない)人類に共通のことばである。単に感情にとどまらず、それは思想、自然観照、宗教的崇厳感、哲理さえ聴く者に感じとらせる。この意味ではベートーヴェンも言うように、音楽こそはいかなる哲学書よりも高遠な啓示に富む書物であり、あらゆる人が音楽を通じて、神性に近づくことができる。
「音痴のためのレコード鑑賞法」
五味康祐著「ベートーヴェンと蓄音機」(角川春樹事務所)P16

僕は辛うじて英語は理解できるが、ルーマニア語も、フィン語も、一切わからない。それでも、エネスコやシベリウス、そしてエルガーやヴォーン=ウィリアムズを堪能できる幸せ。

 

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