明るくも哀しいスペイン音楽を

しばし音楽に浸って現実から逃避。
そんなことが昔よくあった。ティーンエイジャーの頃、音楽を聴く動機はどちらかというとそういうことだったように思う。部活動を拒否して、できるだけ自分の殻に閉じこもり(笑)、自身の知的好奇心を満たしてくれるものだけに意識を向け、ある意味他人を拒絶していた・・・、そんな暗い時代である。暗いと言っても本人はまったく自覚なし。むしろいつも気持ちは前向きで暢気で、あまりの飄々さによく叱られもした。悪く言えば、人のことなどまったく考えていなかった。

あの頃はとにかく初めて聴く音楽のひとつひとつがとにかく新鮮で、一音たりとも漏らすまいと一生懸命だったということ。それくらいの深度で人とコミュニケーションがとれればもっと面白いことになっていたのかもしれないが、何せ若気の至り、西洋クラシック音楽をひとつひとつ丁寧に発掘することに血道を挙げていた時代といえば大袈裟かな。

10日前の地震時、ピアノ室に備え付けてある妻専用のCDシェルフが見事に倒壊した。音楽的趣味が少し違うせいもあるかもしれないが、崩れ落ちたCDを整理しながら棚に戻している最中、僕の知らない興味深い音盤をいくつも見つけた。さすがにピアニストだけあり、僕がこれまで聴いたことのなかったピアノ音楽が多い。

他の人が何て言うかはわからないが、少しずつ東京も平静を取り戻しつつあるよう。あれこれ心配してもしようがないので、時折来る揺れを横目にそのうちのひとつを繰り返し聴いてみた。

ファリャ:ピアノ作品集
・「三角帽子」より3つの踊り
・讃歌「ドビュッシーの墓」
・4つのスペイン風小品
・ファンタジア・ベティカ(アンダルシア幻想曲)
・讃歌「デュカスの墓」
・若き日の3つの小品
・組曲「恋は魔術師」
ジャン=フランソワ・エイセ(ピアノ)

ラテン系の音楽は、明るくも哀しい。故国への憂える想いがそこかしこに聴き取れるが、そのどれもが決してじめじめしていない。何ともセンチメンタルだが健康的で、遠く極東の地においても、人間に生まれて来て良かったなぁと感じさせてくれる。
ちなみに、ドビュッシーの「グラナダの夕暮れ」を聴いた時、見事にスペインを描ききっている書法にファリャは吃驚仰天(この時点で作曲者自身がスペインの地を踏んだ経験はわずか数時間だったという)、賞賛を惜しまなかったそうだが、尊敬するドビュッシーの追悼のために書かれた讃歌の最後にはその「グラナダの夕暮れ」の一節が回想される。
嗚呼、何て素敵な音楽によるコミュニケーション。

歳を重ねるにつれ、人と交わることの大切さ、というか心地良さを知った。10代のあの頃と当然音楽の聴き方も変わった。


2 COMMENTS

雅之

おはようございます。

こういう非常時には、現実逃避せず、
厳しい現実を直視する勇気も大切ですね。
我々日本人は、太平洋戦争での
楽観的戦況判断からの失敗を
決して繰り返してはならないですよね。
被災者の心情への想像力を働かせることも、
的確な行動に繋がりますね。

3・11を境に、世間の空気は一変したと思います。
常識も変わることでしょうね。
原発の安全神話は言うに及ばず、
外部電源から直接充電できる電気自動車が地球にやさしい、
みたいな常識も、大ウソであることがバレましたよね。
人間は大自然とどう向き合って生きていくべきかが、
改めて問われていますね。
そこに、我々が今日からどう行動するかのヒントも、
数多く含まれているのだと思います。

仙台フィルのホームページ
http://www.sendaiphil.jp/
で、彼らの6月までの主催公演が
すべて中止になったことを知りました。
少しでも応援したくて、CDを買って聴きました。

ドビュッシー:管弦楽のための3つの交響的スケッチ「海」 他
パスカル・ヴェロ&仙台フィル
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%91%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%83%AD-%E4%BB%99%E5%8F%B0%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AB-%E4%BB%99%E5%8F%B0%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%A2%E3%83%8B%E3%83%BC%E7%AE%A1%E5%BC%A6%E6%A5%BD%E5%9B%A3-%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%83%AD-%E3%83%91%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%AB/dp/B000MV8YCI/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=music&qid=1300744236&sr=1-1
世界的名指揮者&メジャー・オケの名盤の数々に
勝るとも劣らないし、彼ら固有の美学をも、はっきりと感じることができました。
それは、ドビュッシーが強い影響を受けた、浮世絵の美、日本の美かもしれません。

あの美しい、東北地方太平洋側の町の海岸線の景色が
一日も早く復活するように、
微力ながら私も協力したいです。

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岡本 浩和

>雅之様
こんにちは。
すべてに同感です。こういう時だからこそ地に足をつけて自分ができることをひとつひとつ現実的に処理しながら、つながりたいと思っています。ブログというのは面白いもので、雅之さんのようにほぼ毎回コメントをいただける方や、コメントは一切しなくても毎日のように読んでいただいている方がたくさんおられます。目に見えないところで人間はつながっているんだなと感じます。かれこれ丸4年が経過しますが、ほぼ毎日のように積み重ねてきたこと、そしてともかくどんなことでも発信していくことが大切なんだとあらためて思います。

>3・11を境に、世間の空気は一変したと思います。
おっしゃるとおりですね。パラダイム・シフトが確実に起こっています。常識って本当はないんですよね。所変われば、あるいは状況が変わればすべてが変わってしまいます。これを機に各人が謙虚に、そしてあるがままに一生懸命生きていこうとする世の中になったら素晴らしいと思います。

仙台フィルについては知りませんでした。残念ですね。音盤は持っておりません。唯一朝比奈先生の「ジークフリート牧歌」が特典でついていたベートーヴェンの交響曲全集の第5の第1楽章が仙台フィルの演奏なのですが、きちんと聴いておりません。
ちなみに、大昔、22年前ですが、某企業の冠で仙台フィルと仕事をしたことがありました。あの時は誰が棒を振ってどんなプログラムだったのか・・・・、すっかり記憶の彼方ですが、懐かしい思い出です。おそらく当時以上に演奏技術もアップしているんでしょうね。ご紹介の音盤、聴いてみたいと思います。ありがとうございます。

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