子守唄

昨日の結婚式には新郎新婦と同世代の輩が大勢集まった。年のほどは30歳代前半。当然出産ラッシュが重なっており、赤ちゃん連れというカップルが目立った。以前就職支援の講座をやっていたお陰で、10数年前学生だった受講生が父親や母親になっているわけで、二世誕生の喜びを分かち合う姿を見ていると、年月の経過の速さを実感し、何だかとても不思議な感覚に襲われるものである。しかし、どの子も父親、母親にそっくりで本当に可愛い。

ところで、僕が好きな映画監督の一人にルキノ・ヴィスコンティがいる。イタリア貴族出身の彼は初期にはネオ・リアリズモ、後期にはドイツ3部作など芸術的哲学的で退廃感を醸し出した傑作映画をいくつも製作した。一般的には「ヴェニスに死す」が有名だが、計4時間の超大作「ルートヴィヒ」は見所満載の超大河ドラマで、主演のヘルムート・バーガーやロミー・シュナイダーの名演技を含めより一層の感動と充実感が味わえる作品である。

19 世紀の中頃からリヒャルト・ワーグナーのパトロンとして国家財源を湯水の如く費やしたバイエルン王ルートヴィヒⅡ世の生涯を見事に映像化した作品。現実から逃避し、ワーグナー芸術に心酔した上、バイエルン国の財源のほとんどを作曲家に捧げてしまったともいわれる狂王として悪名高い彼は、若き頃、歌劇「ローエングリン」を観て一瞬にして作曲家の虜になってしまった。20世紀悲劇の一つであるナチスのヒトラーにプロパガンダ作曲家として利用されてしまったように、後世では「ワーグナーの毒」という言葉もあるほど、彼の音楽は強烈な「魔力」を持っている。舞台総合芸術なる新基軸を提唱し、所謂絶対音楽を「下」と見なしたワーグナーの自己顕示欲や自己中心性、「人となり」はその伝記を読むととんでもないものだが、生まれ持った天才のなせる業ゆえ残された芸術の完成度のもつ精神性は一言では言い表せない高みに達している。そのワーグナーが妻コジマとの間に誕生した長男ジークフリートのために作曲した愛らしいオーケストラ曲「ジークフリート牧歌」。コジマの誕生日の朝、妻と生まれて間もない子が眠る寝室の脇の螺旋階段に奏者が並び、指揮者リヒャルトの合図により最初の一音が目覚まし時計のように静かに流れ、この「癒し」の音楽を耳にしたコジマは、感動のあまりほろほろと涙を流したと聞く。映画上ではそのシーンも見事に演出されているのである意味見所の一つ。

ワーグナー:ジークフリート牧歌
ハインツ・レーグナー指揮ベルリン放送管弦楽団

この曲に名盤は多い。古くはワルター&ウィーン・フィル盤。そしてフルトヴェングラー盤クナッパーツブッシュ盤と数多ある中であえて上記レーグナー盤を挙げておく。なぜ「あえて」なのかというと、録音のレベルが妙に低いゆえ楽器の音圧がいま一つだからだ。

音盤としては残されていないものの1998年だったかアフィニス主催の夏の音楽祭コンサートで朝比奈隆が室内オーケストラを相手にこの曲を演奏したときのことをふと思い出した。直後に演奏されたブラームスの第1交響曲の影に隠れてすっかり忘れていたが、爺さんが子どもに聴かせる子守唄のようでとても優しい音色の名演だった。

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