必見!

これもまだ僕が高校生だった頃の話。当時の僕はクラシック音楽聴き始めにも関わらず、いきなりフルトヴェングラーの演奏に魅せられ、少ないお小遣いながらせっせと音盤を集めたり、同趣味の友人と音源を交換したりという生活をしていた。あるとき日本フルトヴェングラー協会の存在を知り早速入会した。当時はまだインターネットなどというものも当然なく、情報といえばこういった専門的な団体の発行する会報などから得る以外他に術がなかった。

しばらくしてからかの協会から、フルトヴェングラーの指揮姿の映ったA4版のカラー・チラシが届いた。何と、1954年のザルツブルク音楽祭での「ドン・ジョヴァンニ」の映画だという。もちろんフルトヴェングラーの指揮姿が映っているということだ。見たい!しかし、当時はまだまだ家庭用ビデオも高価な時代。もちろん我が家にはなかったし、そのVHSテープの価格たるや何と8万円!!
高校生の僕からしてみると目が飛び出るほどの額だった。でも、何とか見たい。それからは寝ても覚めても「フルトヴェングラーの指揮する」姿を夢に見続けた。

ほどなくして京都のどこだったかのホールで「フルトヴェングラーの生涯」という映画が上映されることを知り、同好の友人と喜び勇んで出掛け、固唾を呑んでその始りを待った。そして、フルトヴェングラーの夢にまで見た指揮姿を目の当たりにし、感動した。震えた。
とにかく、とてもいい思い出である。

そして10数年たち、件の「ドン・ジョヴァンニ」のLD(それでも¥15,000くらいしたはずだから、今から考えると隔世の感がある)を手に入れ、正座して観た。やっぱり震えた。今やこの映像もDVDでお手ごろな値段で手に入る。ともかく序曲での正面からのフルヴェンの指揮姿が神々しい(彼は 3ヵ月後には天に召される運命なのだが・・・)。どうやら映像は後撮りらしいが、そういう問題ではない。必見!

モーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」K.527(DVD)
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
チェーザレ・シエピ、エリザベート・グリュンマー、アントン・デルモータ、リサ・デラ・カーザほか

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アレグロ・コン・ブリオ~第5章 » Blog Archive » 人の魂というのは、どうにも土俗的な響きによって癒される

[…] リーザ・デラ・カーザとラヴィ・シャンカールが相次いで亡くなった。 かたや93歳、かたや92歳という天寿を全うして。活動したジャンルはまったく違う二人だが、僕にとってはいずれも天才を陰で支えた「匠」としての印象が強い(デラ・カーザの、フルトヴェングラー最晩年の「ドン・ジョヴァンニ」でのドンナ・エルヴィラを演じる姿がどういうわけか真っ先に浮かぶ。この映像はやっぱり僕にとって相当な衝撃だったから)。 脈絡なくふと思ったことだが、職人というのは皆長生きだ。一方で、天才というのは短命。 音楽史上でいうだけでも、モーツァルトやシューベルト、あるいはショパンというのは30代で逝っている。本当に生き急ぐように数多くの作品をそれぞれの分野に残しながら。 そして、少なくとも現代において僕が触れた「職人気質」の音楽家は皆一様に死ぬまで舞台に立ち続け、歳を重ねる毎に神懸った演奏を繰り広げる技をもった人たちだった。朝比奈隆然り、ギュンター・ヴァント然り。 […]

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