寺山修司の詩、そしてリグ・ヴェーダ讃歌

寺山修司が1983年に亡くなった時、47歳だったという。ちょうど今の僕と同い年で逝ってしまわれたということになる。
「天井桟敷」など彼の極めて前衛的な作風が第一線で認められつつあった最中だが、大学に入学したての僕などにしてみればその深遠な、というかエキセントリックな世界を簡単に理解することはまったく不可能で、どちらかというと、お笑い番組でタモリがモノマネをして結構それが笑えて話題になっていたことの方が記憶に残る。
そんな寺山の詩は直接に心に響く。

築地の浜離宮朝日ホールで開催された稲門グリークラブシニア会定期演奏会に行く。メインの男声合唱組曲「詩人の肖像」がことのほか良かった。

かなしくなったときは
海を見にゆく

古本屋のかえりも
海を見にゆく

あなたが病気なら
海を見にゆく

こころ貧しい朝も
海を見にゆく

ああ 海よ
大きな肩と広い胸よ

どんなつらい朝も
どんなむごい夜も
いつかは終る

人生はいつか終るが、
海だけは終らないのだ

かなしくなったときは
海を見にゆく

一人ぼっちの夜も
海を見にゆく
(詩:寺山修司)

海は大きい。どんなものですら飲み込む威力と、どんな人をも癒す包容力を持つ。2つは表裏一体。こんな時期、一層染みる。

稲門グリークラブ・シニア会第11回定期演奏会
日時:2011年4月16日(土)14:00開演
会場:浜離宮朝日ホール

第1部
ステージ1「ただたけメモリアル2」  指揮:長澤護
・男声合唱組曲「雪と花火」 作詞/北原白秋 作曲/多田武彦
ステージ2 賛助出演 桜友女声合唱団  指揮:竹村洋美 ハープ:成田しのぶ
・無伴奏女声・同声合唱のための「なつかしいうた」より
・ホルスト:リグ・ヴェーダによる合唱讃歌
第2部
ステージ3  指揮:耕納邦雄 ピアノ:西岡瞳
・「西岡瞳編曲集」より
ステージ4  指揮:林直之 ピアノ:横山未央子 ナレーター:西山正俊
・男声合唱組曲「詩人の肖像」ピアノ改訂版初演  作詞/寺山修司 作曲/服部公一
~アンコール3曲

驚きはホルストの「リグ・ヴェーダ」讃歌。もちろん初めて聴いた。1908年~12年にかけて作曲されたこの作品は、インド哲学に影響を受けていた作曲家が自身で翻訳したサンスクリット語宗教文献がベースになっている。

第2曲「水への讃歌」
見よ、水の中に住んでいるものがいる
地上と海のすべてを知っているもの
彼の恐るべき命令は誰もさけてはならない
ヴァルーナ、彼は統治の神だ・・・

明らかに東洋的なセンス満点の音楽。一度聴いただけですっかり虜になるほど美しい。これは音盤を仕入れて繰り返し聴かねば・・・。


5 COMMENTS

雅之

おはようございます。

寺山修司については、私もタモリのモノマネくらいの知識で、作品を詳しくは知りませんでした。
「詩人の肖像」の詩、素晴らしいですね。私も合唱曲で聴いてみたくなりました。

この詩だけを読んで、私がBGMとしてピッタリとイメージするのは、
私がショパンの全作品の中で最も好きな、エチュードOp.25の中の、
No.12 「大洋」です(楽譜の波形の音型を眺めるのも楽しいです)。
http://www.youtube.com/watch?v=9IbCEF1XF9Q&feature=related

話がまた脱線しますが、
ショパンも、水にまつわる名曲をいくつも書いていますよね。
24の前奏曲集 第15番「雨だれ」とか・・・、

バラード第3番 変イ長調 作品47もそうなんですってね。
・・・・・・このバラードの作曲にあたってショパンが触発されたと言われているミキェヴィッツの詩「水の精」は必ずしもハッピーエンドのお話ではない。ショパンは滅多に自分の音楽を文学と結びつけて説明しようとはしなかったので、本当にこの詩が直接の動機になっているかは定かではないが、とりあえず要旨は次のような叙事詩である。「若者は森をさまよい、湖のほとりで水の精に出会った。二人は愛を語り合い、心変わりしないことを水の精は若者に誓わせた。若者はまた別の湖のほとりで若い女に出会った。女は先ほどの水の精の化身であり、若者を誘惑して試した。若者が女の誘惑に負けたとき、女は水の精の姿に戻り、悔しそうに若者に抱きつくとそのまま湖の底に引きずりこんだ。何もなかったかのような静寂だけが残った」・・・・・・ (「詠里庵ホーム ショパン全作品を斬る」という優れたサイトより引用いたしました)

>ホルストの「リグ・ヴェーダ」讃歌
この曲も知りませんでしたので、聴いてみたいです。「作曲家が自身で翻訳したサンスクリット語宗教文献がベース」というところが今の私には興味津津です。聴かれた岡本さんが羨ましいです。第2曲「水への讃歌」の詞もいいですね。

今朝も、人間の体内の約70パーセントは水だという事実を思い出しました。
人を愛するのも、憎むのも、
セックスするのも、殺すのも、(お金を稼ぐのも)、
じつは津波と同じく、水のなせる仕業に過ぎないのかもしれませんね。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
寺山修二の詩から即座にショパンの作品25‐12を連想されるとはさすがに雅之さん!
良いですねぇ、この音楽も。とはいえ、バラードの3番にまつわる話は知らなかったので、勉強させていただきました。ありがとうございます。

リグ・ヴェーダ讃歌だけでなく、この頃のホルストの作品はかなりインド哲学の影響を受けているようですのでどれもツボにはまるかもしれません。僕も少し勉強したいと思っています。

>今朝も、人間の体内の約70パーセントは水だという事実を思い出しました。
人を愛するのも、憎むのも、
セックスするのも、殺すのも、(お金を稼ぐのも)、
じつは津波と同じく、水のなせる仕業に過ぎないのかもしれませんね。

同感です。

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アレグロ・コン・ブリオ~第4章 » Blog Archive » 1975.12.7ショスタコーヴィチ追悼演奏会

[…] 先日、いつもお世話になっているO氏から極めつけの音源をお借りした。古いカセットテープ、なのだが、何とショスタコーヴィチの第13番シンフォニー、通称「バビ・ヤール」の本邦初演の記録というものである(厳密にはこの2日前、12月5日の渋谷公会堂での同出演者によるものが初らしいのだが)。独唱は岡村喬生氏、合唱が早稲田大学グリー・クラブ&稲門グリー・クラブ、そしてオーケストラが早稲田大学交響楽団という、1975年12月7日、新宿厚生年金会館での知る人ぞ知る伝説の舞台の実況録音である。1975年と言うと、その年の8月にショスタコーヴィチが亡くなっており、期せずして追悼演奏会という形になったということで、この時のコンサートは燃えに燃えた、素晴らしいものだったという噂は聞いたことがあった。機会があれば聴いてみたいと思ってはいたが、こんな形で出逢い、聴くことができるとは思ってもみなかったので音源をご持参いただいたときには少々吃驚した(というより面食らった・・・笑)。O氏は早稲田のグリー・クラブのご出身で、稲門グリー・クラブシニア会にも名を連ねていらっしゃり、昨年の今頃催された浜離宮朝日ホールでの公演にも足を運び、プログラムの粋も含めその素晴らしさに感激したことが昨日のことのように思い出される。1975年の厚生年金会館の舞台にももちろん立たれていたそうで、この録音の合唱の声にはご自身の声も入っているということなので、特に合唱に注目して(笑)聴かせていただいた(この年、僕は小学5年生で、ちょうどこの公演の10日ほど前に実弟が生まれた時だったので、時代の空気を含めてよく憶えている。もちろんショスタコーヴィチについては知る由もなかったが)。 […]

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