抱腹絶倒、迷演奏(?!)

お客様と演奏する側(主催側)の息がぴったり合うときのイベントはとても心地良い。特に何をするというわけでもないが、淡々とことが進行してゆく中、見事に阿吽の呼吸ですべてがきっちりと収まる。本日の赤ちゃんのための「音浴じかん」は7組の家族にご参加いただき、楽しい時間を過ごさせていただいた。どのお子様も大人しく、しかもお行儀よくピアノに耳を傾けてくれるので、音楽そのものが一層生き生きする。ピアニストも聴衆の「気」にとても影響を受けるようだ。皆様、ありがとうございます。

ところで、ここのところの「間」と「呼吸」の話題から、興味深い音盤を。

ベートーヴェン:
・ピアノ協奏曲第5番変ホ長調作品73「皇帝」
・交響曲第8番ヘ長調作品93
ヴィルヘルム・バックハウス(ピアノ)
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮バイエルン国立管弦楽団(1959.12.14Live)

バックハウスとクナッパーツブッシュによる一騎打ち!どんな演奏が繰り広げられるのか期待で胸を膨らませ・・・。いやはや、冒頭から驚きの連続。以前、この音盤について少し触れたとき、「それにしてもあのズレ具合はいただけない。」と書いたが、久しぶりに真面目に聴いてみて、見方によってはこの演奏にも「良いところ」があることがわかった。ピアノとオーケストラのアインザッツがまったく合っておらず、吹き出してしまうような演奏。とはいえ、両者とも単にマイペースという言葉では片づけられない。なぜなら、「合わない」なりに、スリル満点の怒涛の「皇帝」が聴かれるから。おそらく当日居合わせた聴衆は、最初から驚きが隠せず固まった状態で(すなわち無呼吸状態で・・・笑)、どうなることやらと冷や汗を流しながら聴いていたのではないだろうか。

本番直前に喧嘩をしたのか、何なのか・・・、少なくともクナッパーツブッシュが故意に仕掛けているような気がするが、しかし、しかし、音楽が進むにつれ、相変わらずのアインザッツのズレは散見されるものの、両者の「音楽性」がギリギリのところで交わる瞬間も多発するところがさすが。何度も繰り返し聴くような演奏ではないだろうが、面白くて何度も聴いてしまった・・・(それにしても、お互いマイペースを貫き通すというのは余程の自信か、プライドか。それに聴衆の拍手もかなり遠慮がち・・・、戸惑いが見られるよう)。

一方の第8交響曲。クナの十八番だけあり、そして邪魔するものは誰もいなく(笑)、深い呼吸と深淵な「間」を伴って巨大な音楽が眼前に創出する。


4 COMMENTS

雅之

おはようございます。

>少なくともクナッパーツブッシュが故意に仕掛けているような気がするが、しかし、しかし、音楽が進むにつれ、相変わらずのアインザッツのズレは散見されるものの、両者の「音楽性」がギリギリのところで交わる瞬間も多発するところがさすが。

タイムマシンに乗り、演奏直後のクナッパーツブッシュにインタビューしてみました。

――バックハウスとは、楽しくユニークな演奏になりましたが?

 名演と爆演は紙一重だ。今日のは、バックハウス君の責任ではなくワシのせいで、ボケとツッコミの漫才みたいだったろう?(笑) だが、一回限りの実演ではこれも一興だ。聴衆も喜んでおった。 
 理想の協奏曲の実現は、いつだって、独奏者、指揮者、オケの、ギリギリでのせめぎ合いだ。だから、お互い「名人に定跡なし」で、一歩間違うと、今日のようなことにもなる。
 だが、音楽の名演は、テニスの試合などもよく似ておってな、相手が簡単な球ばかり打ってくると、こちらも平凡なショットしか返せない。厳しいところにいい球が打ち込まれるからこそ、スーパーショットが生まれ、観客が感動するわけだ。
 協奏曲でも、指揮者が厳しい攻め、絶妙な受けを見せて初めて、独奏者とオケの力も100%引き出され、名演になる。今回はワシの攻めが際ど過ぎたので、紙一重を突きぬけて名演とはならなかったがな(笑)。

――先生は、意表をつかれるような解釈をよくされますが、それが名演につながることが少なくないということですか?

 よく言われるが、基本的には平凡な解釈を選び続けておる。ただ、何が平凡、普通かは主観の問題なので、ワシの普通が、ほかの人には普通でない場合もあるかもしれん。その感覚のズレは若干あるのかなとは思うが、ワシ自身は、奇をてらって変わった解釈をしておるつもりはない。

――ところで、音楽に直接関わる準備以外で、なにか気をつけていることは。

 そうだな、生活全般の中で、行動がルーティンになってしまわないように心がけておる。行動がパターン化すると、思考もパターン化しがちだ。しかし、思考のパターンだけを変えるのは難しい。だからまず行動パターンから変えてみるというわけだ。簡単なことだ、いつもより早起きしてみるとか、朝食のメニューを変えてみるとか、練習のはじめに「みんな、こんなことやめてメシでも食いに行こう」と言ったり、行ったことのないところに行ってみたり、そんなことだ。そうした結果、新しいアイデアや発想が生まれやすくなる気がする。パターン化されたことが嫌いなのかも知れん。例えばワシは、明日には、今予想されるのとは違う姿でいたいと思っておる。青写真どおりに人生が進んでいくのはちょっとつまらない気がするんだ。

※インタビュー記事作成にあたり参考にした文献
羽生善治 (著)  『大局観 自分と闘って負けない心』 (角川oneテーマ21) [新書]
http://www.amazon.co.jp/%E5%A4%A7%E5%B1%80%E8%A6%B3-%E8%87%AA%E5%88%86%E3%81%A8%E9%97%98%E3%81%A3%E3%81%A6%E8%B2%A0%E3%81%91%E3%81%AA%E3%81%84%E5%BF%83-%E8%A7%92%E5%B7%9Done%E3%83%86%E3%83%BC%E3%83%9E21-%E7%BE%BD%E7%94%9F-%E5%96%84%E6%B2%BB/dp/4047102768/ref=sr_1_2?s=books&ie=UTF8&qid=1309730580&sr=1-2
などや、羽生 王座・棋聖の語録より。

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岡本 浩和

>雅之様
こんにちは。
クナッパーツブッシュのインタビュー、リアルですねぇ。さすがは雅之さんです。
確かにクナをはじめとして昔の指揮者は細かいことは気にせず、大局観でのものを見ていたんでしょうね。

将棋については詳しくないですが、羽生さんの書籍は面白そうなので読んでみます。
ありがとうございます。

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畑山千恵子

私も聴いてみようかな、というところですね。バックハウスのライヴ録音は、ベートーヴェンが第4番、第5番「皇帝」があります。第4番はベーム、カンテッリとの共演、第5番「皇帝」はコンヴィチュニー指揮、ライプツィッヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団によるものは、バックハウスが東ドイツに入っていた時に故郷であったライプツィッヒに帰ってきたもので、貴重です。ショルティとの共演のあります。ぜひ、機会があれば、ご一聴を。

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岡本 浩和

>畑山千恵子様
こんにちは。
バックハウスのライブ、特にコンヴィチュニーとのものは未聴ですので、聴いてみたくなりました。ショルティとのこのも残念ながら未聴です。(汗)
本文で紹介しましたクナとのものは冗談でやっているようにしか思えませんが、一期一会のライブという観点からいうととても興味深い記録ではあります。
貴重な情報をありがとうございます。

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