英国紳士風音楽たち

「眩惑のブロードウェイ」を久しぶりに取り出した。
ピーター・ガブリエル在籍時最後のオリジナル・アルバムは、聴く側が年輪を重ねるごとに深みを増すような気がする。少なくとも20歳の青二才の頃の僕には到底理解できなかった英国紳士風ダンディズムと靄がかかったような曖昧さがようやくツボにはまる。
難解な物語を具に読み解いてゆくと、そこに見えるのは作詞をしたピーター・ガブリエルの生い立ちと切っても切れないものに突き当たる。イマジネーションの世界というのはやっぱり現実とどこかでリンクしているものなのだろう、想像力がどんなに長けていても経験していないことをイメージするのはかなり難しい。
外の世界に何かを求めていくら冒険をしようとも、結局行き着くのは「自分自身」。それこそ外に答をどれほど求めても外には存在しないということ。自分のことは結局自分が一番知っており、「わからない」というのは一種の逃避であり、誤魔化しでもあるのだとここのところ強く思うようになった。

件のピーター・ジェネシスを聴きながらそんなことを考え、そして彼らの音楽が英国伝統のイディオムに則ったもので、古くはヘンリー・パーセル、新しくはグスターヴ・ホルストやエドワード・エルガーの世界に通じるものだということを再確認した。僕はイギリス古典音楽については正直疎い。いつぞやホルストを「一発屋」と揶揄し、叱られた(笑)経験を持つ。しかしながら、ロック音楽においてはこよなくブリティッシュものを愛してきたわけだからクラシック音楽がわからないはずがそもそもない。よってそれを機にいろいろとホルストについても勉強させていただき、そしてある日廉価で優秀な、飛び切りの音盤を見つけた次第。

ホルスト:
・6つの男声合唱曲集作品53より
・2人の老兵のための哀歌H121
バッコリアン・シンガーズ・オブ・ロンドン
イアン・ハンフリス指揮イギリス室内管弦楽団
フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブル
・セント・ポール組曲作品29-2
・フーガ風協奏曲作品40-2
・ブルック・グリーン組曲H190
・サマセット狂詩曲作品21-2
・歌劇「どこまでも馬鹿な男」作品39~バレエ音楽
ユーディ・メニューイン指揮イギリス室内管弦楽団

清澄でいかにもイギリスの田舎を髣髴とさせる旋律美。そして民俗色に彩られた愉悦感溢れるリズムと音楽の饗宴。ここには大英帝国が古から築いてきたジェントルマンシップをはじめとする伝統が息づくよう。ブリティッシュ音楽の高貴さと、一方矛盾するかのような土着性(泥臭さ)が共存するこれらの作品には、ホルスト自身がのめり込んだインド哲学からの影響も見逃せまい。「眩惑のブロードウェイ」同様、スピリチュアル的要素も多分に感じられる傑作たち・・・。


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