人生離別無くんば誰か恩愛の重きを知らん

中国北宋代の詩人、蘇東坡の詩選からひとつ。
「人生 離別無くんば 誰か恩愛の重きを知らん」
恩愛とは、あえて夫婦や肉親間の愛情を指すというが、離れてみてやっとわかる感情というものがあるのは確か。古くは大学入学と同時に上京し、人生で初めて肉親と離れ離れに住むことになったときに感じた気持ち。新しきはここ数ヶ月の出来事。「感謝の念」を知るために神様は人々にあらゆる試練を与えられるのだろうが、それを受け止める器が用意されてなければ結局のところはすべて無意味になる。10代の頃は残念ながらその域までは達していなかった。身辺に起こるすべてに感謝できるようになるには様々な体験とある程度の年輪が必要なようだ。

グスタフ・マーラー死して100年。記念年ということで国内のオーケストラでもマーラー作品の数々が採り上げられているようだが、残念ながら今年は一度もマーラーの実演に触れ得ていない。忙しかったり、単に機会を逸したり・・・。来年はエリアフ・インバルが都響と2度目のツィクルスを開催するようなので、今度こそはと狙っているのだが。
世界が混沌とする中、たとえ支離滅裂であろうと宇宙的規模で自然界を(あえて自然界と限定する)描写するマーラーの音楽にはほとんど「恩愛」に近い私的愛情が横溢する。それは元々は父や母に対するもの、あるいはコンプレックスの裏側に存在するものだったのだろうが、大いなるシンフォニーを創造する頃になると、その時の恋人や妻に向けられたものに変化する。マーラーほど「離別」というものに恐怖心を抱き、執着した音楽家は少ないのではないか、そんなことを「大地の歌」を聴きながら考えた。

アルノルト・シェーンベルクが自身の主宰する私的演奏協会のために編曲しようとしたものの頓挫し、後にライナー・リーンによって完成された「大地の歌」室内楽版。

マーラー:交響曲「大地の歌」(シェーンベルク&リーン編曲室内オーケストラ版)
ビルギット・レンメルト(アルト)
ハンス・ペーター・ブロホヴィッツ(テノール)
フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮アンサンブル・ムジーク・オブリク

原曲以上にすっきりして見通しの良い編曲が何よりこの交響曲の理解を深めるのに役立ちそう。フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン、打楽器、ピアノ、ハルモニウム、弦5というわずか13人編成のオーケストラだが、まったくもって過不足なくあの劇的なマーラーの音楽を再現する(「大地の歌」は僕の愛する音楽だが、最近は専らこのヘレヴェッヘ盤を取り出して聴くことが多い。とにかく「もたれない」のが良い)。例えば第6楽章「告別」の類稀なる透明感は、「永遠に・・・」が繰り返される最後のフレーズにおいて最高の威力を発揮する。

友よ、この世に私の幸福はなかった。
私はひとり寂しく山にさまよい入る。

疲れ果てた孤独な魂に 永遠の救いを求めて、
今こそ故郷へ 帰ってゆくのだ。
私は心静かに その時を待ちうけている。

しかし、春になれば
愛する大地は再び到るところ花が咲き乱れ、
木々は緑に覆われて
永遠に、世界の遠き涯までも青々と輝き渡る。

永遠に・・・、永遠に・・・。
(宇野功芳訳詩)

その昔、ワルター&ウィーン・フィルのアナログ・レコード(ロンドンMZ5013)の歌詞対訳は宇野功芳氏のものが付されていたが、この訳がなかなかのもので、僕は好き。
さて、今夜はもうひとつ、偉大なるアマチュア、ギルバート・キャプラン指揮による「復活」も聴いてみようか・・・。


2 COMMENTS

雅之

こんばんは。

マーラー:交響曲「大地の歌」(シェーンベルク&リーン編曲室内オーケストラ版)については同感です。たぶんこの小編成編曲版を実演で聴くと、ショスタコの交響曲第14番の世界にも、益々接近する感触を得られそうです(あっちもあまりに小編成なので、初めて実演を聴いた時、驚きました・・・)。

インバルの都響と2度目のマーラーツィクルスも大いに楽しみでしょうが、そのインバル&都響によるショスタコーヴィチ交響曲集の方も聴き逃せないと思いますよ(笑)。

ショスタコーヴィチ交響曲集
https://www.tmso.or.jp/j/topics/20101019/index.php
(これからとりあえず、交響曲第4・5・12番や協奏曲などのプログラムが組まれているよう。たしか当初は4月に交響曲第10番もあったはずだけど?)

どっちにしても、やっぱ東京の人は羨ましいねぇ!!(笑)

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。

>小編成編曲版を実演で聴くと、ショスタコの交響曲第14番の世界にも、益々接近する感触を得られそうです
確かにそうかもですね。僕は実演では未聴なので、ぜひとも聴いてみたいと思っております。

なお、インバル&都響のショスタコはもちろん参戦いたします(笑)。まずは手始めに14日に第2チェロ協奏曲と第5番。3月に第4交響曲です(こちらは今から最高に楽しみです)。20日の第12番は残念ながらチケットがとれなかったのです(涙)。4月の第10番も聴き逃しております・・・。

>やっぱ東京の人は羨ましいねぇ!!

そういう意味ではありがたいですね。

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