第5楽章でまたしても頭が真っ白になった

今夜はティーレマン指揮するベートーヴェンの「田園」交響曲を観る。
この全集の興味深い点は、全9曲を4人の映像監督―すなわち、第1番、第2番、「コリオラン」序曲がブライアン・ラージ、「エロイカ」と第4番、第9番がアグネス・メート、第5番と「田園」がカリーナ・フィビヒ、第7番、第8番及び「エグモント」序曲がミヒャエル・バイヤーという布陣―が分担してプロデュースしているところ。見事にそれぞれの個性が出ており、映像演出という観点だけで視聴してみても相当に面白い気づきが得られる。
「田園」交響曲は現時点でベートーヴェンの9曲の最高傑作だと信じて疑わない僕だが、カリーナ・フィビヒのコマ割りやカメラ・ワークが特にツボにはまって観ていて本当に引き込まれる。例えば、オーケストラの後方から鳥瞰的に下降し、同時に指揮者にズームインする手法や、音楽の内声部を強調するべくその楽器にフォーカスを当てたりする方法が一層音楽を視覚的に捉えられるように補なわれているところが本当に素晴らしい。特に第6番のような標題音楽(といってもこの曲の場合、精神的な意味での感覚を音化した代物だけれど)の場合、こういう方法は非常に効果的だと思われる。音楽の意味がより確かに体感できるから。

それと、このボックス・セットの特徴の2つ目。それはヨアヒム・カイザー氏との510分に及ぶインタビューを交えての楽曲それぞれの詳細な解説が付いているところ。当然そのすべてを詳細に観ることはまだ叶っていないが、先日の講座で第5交響曲を採り上げた際の参考に随分なったので、ひとつひとつじっくりと観ながら検証、研究したいと思っている。真に興味深い。

ベートーヴェン:
交響曲第6番ヘ長調作品68「田園」
クリスティアン・ティーレマン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(2010.4Live)

第5楽章でまたしても頭が真っ白になった。嵐の直後の鳥の鳴き声ですでに減速し、第1主題をゆったりとしたテンポで始めるところから、これはもう僕好み。ベートーヴェンが常日頃からもっていたであろう宇宙や自然に対する感謝の念がとても上手く表現されており、ウィーン・フィルの各奏者のもつ想いと一体化、一切の虚飾や無駄のない「あるがままの音楽」がただただ流れるのみ。指揮者の棒が降りた後、ほんの一瞬の間をとっての拍手も良い。ウィーンの聴衆のお行儀良さもこの演奏会の価値を上げる。
そういえば、僕はまだティーレマンの実演に接していない。こうなったら早く機会を見つけて、特にドイツ・オーストリア系の作品をたっぷりと聴いてみたい。


3 COMMENTS

雅之

おはようございます。

>「田園」交響曲は現時点でベートーヴェンの9曲の最高傑作だと信じて疑わない僕だが、

「田園」だけとおっしゃるのなら、私は大いに異論があります。あの宇野さんでさえ、最高傑作は「第3」「田園」「第9」と書いていますからね。単に、岡本さんの現在の心境にとって都合のいいベートーヴェンが「田園」、ということなのでは(笑)?

ティーレマン&VPOによる第4、第5、第6「田園」のこの映像はNHKで放送していて、私はそれを録画して観ています(第3楽章や第5楽章冒頭のウィンナ・ホルンの活躍が特に印象に残った)。おっしゃるとおり高画質でいろいろ発見も多く魅力的な映像演出だと思いますし、全九曲なら尚更でしょうね。それにしてもBDを見慣れると、もうDVDには戻れなくなりますよね(笑)。

ティーレマンの指揮には賛否両論あるでしょうね。しかし、過去の巨匠と同じことをやっても意味がないのだし、これからもどんどん新境地を開拓し、解釈を深めてもらいたいものです。それは、同世代としての応援、エールの気持ち、一緒に自分も成長したいという思いが強いということでもあります。

近頃私がよく聴いている「田園」往年の名演はこれです(宇野さんが無視するひとつ)。
クーベリック&パリ管弦楽団(SACD)
http://www.hmv.co.jp/product/detail/4011182
パリ管も美しさの限り(宇野さんの決めゼリフ!)です。

それと前にもご紹介しましたが、クーベリックもまた、ライヴが最高です。
クーベリック&バイエルン放送響(ライヴ)
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1088514

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雅之

余談
原発再稼働を決めた政府に対し、怒りが治まりません。
「こんな再稼働は絶対許してはいけない」という大阪市の橋下徹市長を、この一点だけで強く支持します。

「自然に対する感謝の念」が僅かでもある人は、原発再稼働について絶対スルーはできないはずです。

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岡本 浩和

>雅之様
こんにちは。
もちろん、今は「田園」が一番だという心境だということです。
「エロイカ」も第9も最高傑作です・7

>しかし、過去の巨匠と同じことをやっても意味がないのだし、これからもどんどん新境地を開拓し、解釈を深めてもらいたいものです。それは、同世代としての応援、エールの気持ち、一緒に自分も成長したいという思いが強いということでもあります。

同感です。
ご紹介のクーベリック盤はいずれも未聴です。「田園」好きとしては必須ということですね。聴いてみます。

>「自然に対する感謝の念」が僅かでもある人は、原発再稼働について絶対スルーはできないはずです。

こちらも同感。
それにしても世の中のシステムを根本的に変革しない限りいろいろ無理ですね・・・。

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