12月 13
ティーレマン指揮ウィーン・フィルのベートーヴェン交響曲第9番を観て思ふ
抱き合おう、諸人よ。この口づけを世界に!
ベートーヴェンは交響曲第9番を通じて、もはや感情に左右される仮我の世界を脱し、空を体現する真我の世界に昇華するよう人々を説こうとした。終楽章の前3つの楽章の主題を否定し、「歓喜の主題」を導こうとする方法こそまさに孤高であり、悟りの境地である。
終楽章のチェロによる「歓喜の主題」直前の間のとり方といい、テンポが揺れ、うねる音楽の運びといい、クリスティアン・ティーレマンの解釈は明らかにフルトヴェングラーの様式をなぞろうとしているが、フルトヴェングラーの音楽がいわば曲線的で、しかもデュオニソス的であるのに対し、彼のものはいかにも直線的でアポロン的である(そもそも指揮姿自体があまりに律儀で正確なビートを刻む)。熱いと見せかけながらこれほどクールな演奏はほかにない。
「ゲーテ詩集」をひもといた。
第1楽章アレグロ・マ・ノン・トロッポ、ウン・ポコ・マエストーソの苦悩は「人間性の限界」に通じる。ベートーヴェンもゲーテ同様愚かな人間を諭す。