グリモー&アバドのラフマニノフ第2協奏曲を観て思ふ

lucerne_2008_a_russian_night「リディア旋法による、病癒えた者の神に対する聖なる感謝の歌」
ベートーヴェンの作品132の第3楽章冒頭に記された言葉である。しかも、アダージョの副主題には「新しい力を感じつつ」とも書き記されているところがミソ。
1825年4月、ベートーヴェンは持病の腸カタルを悪化させて数週間病の床に伏したが、順調に回復し夏には無事この作品を完成させた。その時の、いわば敬虔な想いからこの楽章が生み出されているのだが、まさに心魂に通ずる崇高な音楽が鳴らされる。

クラウディオ・アバドの音楽は大病を克服した後、大きく変化を遂げた。言葉では表現し難い大きさと透明感。オーケストラの面々が指揮者を完璧に信頼し、手となり足となり音楽を懸命に創り出そうとする様。それらがどの作品を聴いても感じとれるところが真に素晴らしい。

アバドのこの姿こそ先のベートーヴェンの作品132第3楽章の冒頭言に通ずるものだ。どんな音楽にも音楽ができる喜びと、音楽そのものへの愛情、そして感謝が絶えない。
ちなみに、作品132はロシアのガリツィン公爵のために書かれたものだが、偶然か必然か、2008年にアバドがエレーヌ・グリモーをソリストに迎えての「ロシアン・ナイト」と称するルツェルン音楽祭の映像を観た(来週のさくらカレッジのテーマがラフマニノフなのでこの映像を鑑賞いただく予定)。客席にはポリーニ夫妻はじめ、数多くの著名人の姿が散見される。

ストラヴィンスキーの「火の鳥」の、端整かつ冷静な響きの中にこれほどの熱い血のたぎりを感じさせるところが見事。このバレエ音楽はバレエを観るに限ると思い込んでいたが、実に管弦楽版で心を捕えられたのは初めてかも。それほどにある意味衝撃的な演奏。

ルツェルン音楽祭2008「ロシアン・ナイト」
・チャイコフスキー:交響的幻想曲「テンペスト」作品18
・ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番ハ短調作品18
・ストラヴィンスキー:組曲「火の鳥」(1919年版)
エレーヌ・グリモー(ピアノ)
クラウディオ・アバド指揮ルツェルン祝祭管弦楽団(2008.8.22Live)

それにしても、ラフマニノフにおけるグリモーの堂々たる風格と余裕のある指捌きは観ていて感心しっ放し。時に指揮者と目配せした後の何とも言えぬ微笑!!(音楽以外の一挙手一投足に釘付けになるほど可憐で、彼女こそミューズに選ばれし者であることを確信する)
第2楽章アダージョ・ソステヌート冒頭のクラリネットとピアノの掛け合いの美しさ。このメロディを、そしてこのアレンジを創造したことだけでもはやラフマニノフは天才。そして、この音楽を、郷愁感を湛えて実に明朗にこなすグリモーの天才。ここは、本当に涙なくして聴けぬ。

 


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