PINK FLOYD “The Dark Side of the Moon” (DVD)を観て思ふ

pink_floyd_dark_side_of_the_moon_making560ロジャー・ウォーターズは語る。

要するに、ニュートン物理学だ。
科学は数値化できても、人の心は無理だ。それがこのアルバムのテーマだと思う。

人の心はシンプルでありながら一筋縄ではいかない。特に、深層の闇については。
アルバム最後の、鼓動をバックに囁かれるフレーズが沁みる。

月に闇の部分はない。すべてが闇だ。

そう、闇があって光があるのだ。
考えること、感じること、信じることを与えられたがゆえの苦悩。
言葉があるがゆえの苦悩。
もしも、動物のように言葉を持たなかったら、人間社会に悩みなどなかったのではないのか・・・。
例えば、アンドレイ・タルコフスキーは、深層の対比を描くのに犬を登場させた。あるいは、森達也は猫だ。自由と束縛と。

なるほど、それはロジャー・ウォーターズの、”Brain Damage”に関する言葉と同期する。
この曲は、ケンブリッジのキングズ・カレッジのことを思って書いたのだという。
美しい芝生を作りながら、その芝生には入ってはいけないとする矛盾をどう説明するのかと。

人は過ちを犯す。
完璧な人間なんているはずがない。
それなのに、どんな人にも善良な部分と罪深い部分の葛藤があり、
善良な部分をもって内面の悪を倒すような
そんな努力をいつも続けている。
毎日の暮らしの中で、誰もがやるべきことだと思う。

ロジャーは、僕たちに「日々、懺悔せよ!」と訴えるのだ。
また、ニック・メイスンは言う。

あのアルバムの時、皆の気持ちが一致していた。
皆協力的で、誰が何をやるのか自然に決まっていった。

何十年も売れ続けるアルバムには途轍もないエネルギーがある。
ましてやここには想像を絶する奇蹟が。

PINK FLOYD:The Dark side of the Moon

Interviews with:
Roger Waters
David Gilmour
Richard Wright
Nick Mason
Alan Parsons
Chris Thomas
Storm Thorgerson

邦題「狂気」のいわば舞台裏。
同じくニック・メイスンの言葉に「真実」が宿る。

子どもみたいにシンプルな言葉で、表現が純粋なんだ。

赤子の心を、無垢な心を忘れてはならない。

さらに、アラン・パーソンズの”Us and Them”に関する言も興味深い。
ヴォーカルのエコーを外すと、空白が生まれるのだと。
逆に空白を作ったから、あの作品の出来が良くなったのだと。
なるほど、音楽における空白とは、静寂ということ。これはジョン・ケージの思想にも通じることだ。空即是色。
ジョン・ケージの言葉は、タルコフスキー監督の「ストーカー」での小説家と科学者の対比を想起させる。

科学技術者と芸術家は、異なる出発点からおそらくは異なる目標に向かいながら、(一見したところ偶然によって)交差点で出会い、さもなければ知られることのなかったもの(内と外の対話)に気づき、世界のなかに、また人間それぞれの静かな内部に、共通の目的を輝かしく想像するようになった。
ジョン・ケージ/柿沼敏江訳「サイレンス」(水声社)P117

信ずることこそ命なのである。
光を拒絶する佐村河内守にすべてが闇の中にあることを思った。

いみじくも“The Dark Side of the Moon”の最後に収録された言葉が胸に刺さる。

死は怖くない。死ぬ時は死ぬ。
~クリス・アダムソン

怖れる必要はない。どうせ死ぬんだ。
~ジュリー・オドリスコル(ドアマン)

 

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2 COMMENTS

雅之

ブログ本文に100%共感します。本当にそのとおりだと思います。

タルコフスキーについては、ちょうど今の私の歳と同じ54歳で亡くなっていますので、今年はずっとそれを意識しています(昨年は53歳で死んだチャイコフスキーでした)。

>赤子の心を、無垢な心を忘れてはならない。

・・・・・・私は17歳のときに「毎日をそれが人生最後の一日だと思って生きれば、その通りになる」という言葉にどこかで出合ったのです。それは印象に残る言葉で、その日を境に33年間、私は毎朝、鏡に映る自分に問いかけるようにしているのです。「もし今日が最後の日だとしても、今からやろうとしていたことをするだろうか」と。「違う」という答えが何日も続くようなら、ちょっと生き方を見直せということです。

自分はまもなく死ぬという認識が、重大な決断を下すときに一番役立つのです。なぜなら、永遠の希望やプライド、失敗する不安…これらはほとんどすべて、死の前には何の意味もなさなくなるからです。本当に大切なことしか残らない。自分は死ぬのだと思い出すことが、敗北する不安にとらわれない最良の方法です。我々はみんな最初から裸です。自分の心に従わない理由はないのです。・・・・・・

スティーブ・ジョブズ 2005年6月、米スタンフォード大学卒業式でのスピーチ(日本経済新聞サイトの翻訳 )より

http://www.nikkei.com/article/DGXZZO35455660Y1A001C1000000/

返信する
岡本 浩和

>雅之様

ジョブズの言葉は本当に重いですね。

>タルコフスキーについては、ちょうど今の私の歳と同じ54歳で亡くなっていますので、今年はずっとそれを意識しています

まだまだと思いつつも、我々もそういう年齢になっていることに吃驚です。

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