第20回 早わかりクラシック音楽講座 2008/10/26(Sun)

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「神とひとつになること~J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲」

内容
≪ 神とひとつになること~J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲 ≫
第1部:ピアノ生演奏(Piano:愛知とし子)
第2部:晩年のバッハ、ゴルトベルク変奏曲成立事情。数と宇宙など予備知識。
第3部:ゴルトベルク変奏曲を聴く
-お茶とお菓子付-
第1部
□ピアノ生演奏(Piano:愛知とし子)
①クープラン:神秘な防壁
②J.S.バッハ:G線上のアリア(愛知とし子編曲)
③J.S.バッハ:主よ、人の望みの喜びよ(愛知とし子編曲)

写真 047

バロック音楽のひとつの特長でもあるポリフォニー(複数の異なる動きの声部が協和しあって進行する音楽)について、愛知とし子がピアノで音を出しながら解説をしました。音楽にあまり馴染みのない人にもとてもわかりやすいお話でした。
まずはフランス・バロックを代表する作曲家、フランソワ・クープラン(1668~1733)が1717年に出版したクラヴサン曲集第2巻から名曲「神秘な防壁」。わずか2分半程ながら本当にいい曲です。数ヶ月前、NHK-BSで偶然あるピアニストが弾いている映像を観て、一聴気に入った楽曲です。そして、宇宙人バッハの超有名曲2曲を続けて。「G線上のアリア」では涙する参加者もいたくらい心の篭った素晴らしい演奏でした。いずれも愛知とし子による編曲。
今回の3曲は11月のリサイタルでも演奏される予定です。感動的な瞬間が体感できると思います。お楽しみに!

第2部
□晩年のバッハ、ゴルトベルク変奏曲成立事情。数と宇宙など予備知識。
バッハの天才性は「勤勉と訓練」とによって成立したものだという本人の謙虚な言葉をモチーフに、誰でも潜在的可能性を秘めていることを「人間力向上セミナー」的な切口を交えながらまずはお話しました。バッハ自筆の譜面をベートーヴェンやブラームス、ショパンのそれと比べてどれほど緻密で美しいかを見ていただき、バッハの人間性を少しばかり垣間見た気がします。そして、ライプツィヒの聖トーマス教会カントール時代、晩年に至る作曲家の周辺を簡単に紹介し、バッハが数字に拘ったこと、宇宙を秩序付けるものは数であるということなどの話を通し、「ゴルトベルク変奏曲」という大作を少しでもよく理解するための背景を教示させていただきました。
また、「ゴルトベルク変奏曲」が本来2段鍵盤チェンバロのために書かれたことを考慮し、チェンバロの音を知っていただくために、そして「変奏曲」という形式を知っていただくために実際にヘンデルの有名な「調子の良い鍛冶屋」を聴きました。

①ヘンデル:チェンバロ組曲第5番ホ長調~アリアと5つの変奏曲「調子の良い鍛冶屋」
イゾルデ・アールグリム(チェンバロ)

わずか3分半ほどの曲ながら、親しみのあるメロディで変奏曲の楽しさがよく理解できる楽曲です。確か僕の小学校時代に音楽の授業で採り上げられた記憶があるので、誰もが知っているメロディなのかと思っていましたが、意外なことに参加者の誰も聴いたことがない(つまり音楽の授業にはなかったと)ということで愕然としました(笑)。僕の記憶違いなのでしょうか・・・?

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第3部
□ゴルトベルク変奏曲を聴く
まずは「ゴルトベルク変奏曲」の成立事情、そして楽曲の流れ、大枠を理解していただいた上で実際に音盤を聴きました。
まずは、主題であるアリアのみを次の演奏で。
①グスタフ・レオンハルト(チェンバロ)(1976年録音)
②タチアナ・ニコラーエワ(ピアノ)(1992年録音)
③グレン・グールド(ピアノ)(1955年オリジナル・モノラル録音)

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楽器の違い、解釈の違いによってこうも印象が変わるのかを体感。
そして、いよいよ全曲制覇です。

④グレン・グールド/バッハ:ゴルトベルク変奏曲(1955年)の再創造

有名なグールドのデビュー盤をコンピューター解析し、自動ピアノで演奏、新たにステレオ録音された代物。独特の鼻歌は当然入っていませんが、明らかにグールドのタッチ。「ゴルトベルク変奏曲」の原点であり、かつ今でも色褪せない傑作だと再確認しました。

休憩をとり、聴き比べ。時間の関係で以下の音盤は抜粋です。
⑤高橋悠治(ピアノ)(2004年録音)~アリアと第26変奏から最後まで)
⑥グレン・グールド・1959年ザルツブルク・ライブ(第26変奏から最後まで)
⑦アンジェラ・ヒューイット(ピアノ)~第26変奏から最後まで
⑧グレン・グールド(1981年録音)~アリアから第2変奏まで
⑨シトコヴェツキー編曲弦楽三重奏版~第26変奏から
⑩シトコヴェツキー編曲弦楽合奏版~アリアと第28変奏から

それぞれの演奏をとても面白く聴けたことが収穫です。本当に様々な可能性を秘めた最高の音楽であることを実感しました。「グールドの55年盤がいい」、「いや81年盤だ」、「ニコラーエワ盤が良い」、「ヒューイット盤は正統派だろうけど面白みに欠ける」などなど、聴き手の感性の違いによって聴き方も様々。
しかし、しかし、グールドの59年ライブには皆ぶっ飛んでいました。やっぱりこれは凄い!

その晩年、バッハは滅び行く対位法芸術(複数の旋律が同じ重要性をもちながら同時に進行する、いわゆる多声音楽の技法)の伝統を次の時代に遺すことを考えて、自らの芸術の集大成へと向かっていく中で、今回とりあげる「ゴルトベルク変奏曲」や「音楽の捧げ物」、「フーガの技法」など至高の音楽を創作していったのだということをあらためて痛感しました。
ということで、講座も白熱し、予定より30分ほどオーバーし終了です。とても充実した3時間半でした。

講座終了後の懇親会もいつものように楽しかったです。
次回は12月、リクエストによりショパンを採り上げる予定です。さて、どういう切口(時期で捉えるか、曲集で絞り込むか、あるいは名曲集にするか)でやろうか・・・。