「悲劇的な最期を迎えた巨匠の愛と芸術~シューマン」
内容
≪ 悲劇的な最期を迎えた巨匠の愛と芸術~シューマン:ピアノ協奏曲 ≫
第1部:ピアノ生演奏(Piano:愛知とし子)
第2部:シューマンの生い立ち、人間シューマンの魅力、そしてクララとの恋、精神疾患
第3部:ピアノ協奏曲イ短調作品54を聴く
-お茶とお菓子付-
第1部
□ピアノ生演奏(Piano:愛知とし子)
シューマン:子どもの情景作品15から
①見知らぬ国から
②珍しいお話
③鬼ごっこ
④おねだりに
⑤幸せいっぱい
⑥重大な出来事
⑦トロイメライ
青年シューマンがクララ・ヴィークとの熱烈な恋愛の最中に生み出した傑作ピアノ小品集(シューマン入門に最適!)。1838年3月18日、ロベルトはウィーン演奏旅行中のクララに向け次のような手紙を送る。
「今僕は音楽いっぱいで張り裂けそうな気がすることがよくあります。何を作曲したのか、忘れないうちに書いておきますと-いつか君はぼくに書いたでしょう、『時々あなたは子どものように思えます』って。この言葉の余韻の中で作曲したのです。つまり、これがまるで魔法の筆のような働きをして、30ものちっちゃな可愛いやつが書けました。そこから12曲選び出して、『子どもの情景』と名づけたわけです。君もきっと喜んでくれることでしょう、が、名ピアニストであることは忘れてくださいよ」
~「作曲家別名曲解説ライブラリー23 シューマン」(音楽之友社)
最終的に全13曲で出版されたこの曲集から、本日は前半の7曲を演奏していただきました。推進力がありながら、一方で感傷性も備えた美しい「子どもの情景」でした。
第2部
□シューマンの生い立ち、人間シューマンの魅力、そしてクララとの恋、精神疾患
シューマンは一流の芸術家でもあり、最高のビジネスマンでもありました。幼少時、詩や文学に造詣の深い父親と生真面目で現実的な母親に育てられ(一時期乳母に預けられていたこともあり、そのことが精神不安定の遠因になっているだろうという説もあります)、優秀な彼は文学や音楽にも才能を発揮し、スクスクと育ちます。16歳の時、彼の芸術的才能を評価していた父が急逝し、生活のために一度は音楽の道を断念、母のススメによりライプツィヒ大学の法科に入学するも、夢を棄てきれず、最終的には音楽家として大成していく姿をみると、自分も頑張らなければと鼓舞されるようです。まさに空想だけでなく、行動で示し、夢を実現化していったシューマンはそういう意味でバランスの取れた人財だったのです。
1836年、紆余曲折を経、9歳年下のクララと恋愛に落ち、クララの父親であるヴィークの反対に会うも、最後は意志を通し、結婚に至った二人。誠にロベルトとクララは芸術上お互いになくてはならない存在、いわゆるオシドリ夫婦でした。ロベルトが初期に残したピアノ曲の大半はクララが弾くために書かれており、チャーミングで魅力的な楽曲が占めています。
①幻想小曲集作品12~
・夕べに
・飛翔
・なぜに
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
クララへの愛の証として創作した名作。アルゲリッチの名演奏で前半3曲を聴きました。
クララとの幸せな結婚生活の中で生み出された数々の名品、ライプツィヒ時代を回顧し、幻聴に悩まされたドレスデン時代、そして最後の日々を過ごしたデュッセルドルフ時代についてお話し、エンデニヒの療養所での最後の2年間について語りながら、クララとロベルト、そして弟子ともいえるヨハネス・ブラームスとのいわゆる三角関係について受講いただいた皆様とディスカッションしながら、人間にとっての「自律」や「協力」、「共生」について語り、有意義な時間を過ごしました。次回の講座はブラームスをとりあげる予定なので、今回のお話とリンクすることができ、一層楽しみになった次第です。
若干の休憩を挟み、
第3部
□ピアノ協奏曲イ短調作品54を聴く
名作ピアノ協奏曲をじっくりと聴きました。第1楽章、アルゲリッチがチョン・ミョンフンと録音した2001年のライブ盤を聴いたのですが、どうも音圧が低く、しっくりこない。演奏は優れているとはいえ、録音がいまひとつで納得いかず、皆様の了承を得て、別の音盤で第1楽章から再度聴くことになりました。
②ピアノ協奏曲イ短調作品54
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
チョン・ミョンフン指揮フランス国立放送フィル(2001Live)
第1楽章のみ
③ピアノ協奏曲イ短調作品54
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
カジミェシュ・コルト指揮ワルシャワ国立フィル(1979Live)
録音の良し悪しで、音盤の価値が変わってしまうということをあからさまに見せつけられました。圧倒的に1979年Liveの勝ち!もちろん38歳のアルゲリッチと60歳の彼女とではエネルギーもテクニックも違うでしょう。しかしながら、ほとんどタイミングのズレもなく、いかにアルゲリッチが若くして完成していたのかがわかる聴き比べでした。ともかくこのワルシャワ・ライブは凄い!!
最後に、ロベルト・シューマンが「少年のためのアルバム」作品68の付録として刊行した「音楽の座右銘」からいくつかを抜粋し、ご参加いただいた皆様へのお土産としました。単に音楽を学ぶ人向けではなく、彼が人生、仕事を通して学んできたことがわかりやすく語られているのです。
1.
まず音感を培うこと。できるだけ小さい時から、音や調性を聴き分ける訓練をする。鐘や窓ガラスの響き、またはカッコウの鳴き声がどの音になるか、音符に当てはめながら聴いてみること。
30.
デュオやトリオなど他の人と協演できる機会を逃してはいけない。協演すると演奏が滑らかで躍動的になるからである。できるだけ声楽家の伴奏もしなさい。
38.
山の向こうにも人はいる。謙虚にしていなさい。他の人がいままでに発見・考案できなかったことを、見つけたり考えたりはしてはいけない。もしそれができたら、天からの贈り物であると思いなさい。そして皆と分かち合わなくてはならない。
42.
合唱に入って熱心に歌いなさい。そこではまず中声を歌いなさい。そうすれば音楽的になる。
56.
作曲を始めたらすべて頭の中で行いなさい。楽器で試してみるのは最後まで曲ができあがってからである。音楽が感情に溢れ、魂から生まれてくるものならば、他の人の心を打つだろう。
59.
人生の勉強もしっかりしなさい。そして他の芸術や学問にも目を向けなさい。
62.
小銭で買える1ポンドの鉄から10万倍も価値ある時計のゼンマイを何千と作ることができる。神様から与えられた1ポンドの素材を大切に用いなさい。
67.
天才だけが天才を完全に理解する。
68.
勉強に終わりはない。
出典:「作曲家◎人と作品シリーズ シューマン(藤本一子著)」(音楽之友社)
おそるべし、シューマン!!
次回、第24回はヨハネス・ブラームスをとりあげます!乞うご期待。