第30回 早わかりクラシック音楽講座 2009/9/26(Sat)

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「リヒャルト・シュトラウス~交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』」

内容
≪ リヒャルト・シュトラウス~交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』 ≫
第1部:ピアノ生演奏(Piano:愛知とし子)
第2部:19世紀末~20世紀前半、ヨーロッパ音楽界とR.シュトラウスの生涯
第3部:交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」解剖試聴
-お茶とお菓子付-

第1部
□ピアノ生演奏(Piano:愛知とし子)
①ブラームス:3つの間奏曲作品117~第1曲 変ホ長調
②ブラームス:6つのピアノ曲作品118~第2曲 間奏曲イ長調

ブラームスが自身の内面に沈潜していた同じ頃に、若きリヒャルト・シュトラウスが後年に残る交響詩の名作を数々生み出していたこと、そして彼らの音楽のもつ表面的あるいは内面的な違い・・・。
第1部では、創作意欲の衰えを覚えていた最晩年のブラームス(1893年)が、自らの内面を吐露するかのように残した20曲のピアノ小品から愛知とし子が2曲を選曲、演奏しました。個人的な感情がここかしこに散りばめられた地味ながらとても美しい音楽たちをまずは堪能していただきました。

写真 004

第2部
□19世紀末~20世紀前半、ヨーロッパ音楽界とR.シュトラウスの生涯
シュトラウスが青少年期を送った19世紀末とはどんな時代だったのでしょうか?当時、ヨーロッパ音楽界では保守派と革新派-いわゆるブラームス派とワーグナー派との熾烈な「闘い」が繰り広げられていました。ミュンヘン宮廷管弦楽団のホルン奏者であった父フランツは根っからの保守派で反ワーグナー派だったのですが、その父のもとリヒャルトは幼少の頃よりモーツァルト、ハイドン、ベートーヴェン、あるいはブラームスなどの音楽を絶対のものとして教育を受けます。
1880年代初頭、ミュンヘン大学哲学科を退学した直後、マイニンゲン宮廷管弦楽団楽長ハンス・フォン・ビューローと出逢ったことでブラームスの信奉者となるのですが、同時にヴァイオリン奏者の一人であるアレクサンダー・リッターの影響をも受け、ワーグナーにも開眼することになります。特に、楽劇「トリスタンとイゾルデ」の舞台に触れ、決定的な衝撃を受けたことで、ワーグナーにますます傾くようになるのです。
まずは、19世紀後半を席巻したブラームスとワーグナーの音楽をそれぞれ抜粋で聴いてみました。

①ブラームス:交響曲第4番ホ短調作品98~第1楽章
カルロス・クライバー指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1884年~85年にかけて作曲されたブラームス最後の交響曲から第1楽章を聴きました。いわゆる古典派の型にきっちりとはまった中にもブラームスらしい「侘び寂」の感じられる名曲です。

②ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」~第1幕前奏曲
カール・ベーム指揮バイロイト祝祭管弦楽団
少年リヒャルトが衝撃を受けたといわれる「トリスタン」から第1幕の前奏曲をじっくりと。有名なベームの1966年バイロイト実況録音盤から。

当時の音楽界を二分する二大巨匠の音楽をつまみ聴きしたくらいではなかなか真髄までは理解できないのですが、これらは作曲家それぞれを表すうってつけの音楽です。リヒャルトが両巨匠から影響を受けているということもほんの少しですが理解できるように思いました。
ここからはシュトラウスの半生を超特急で講義。彼の作曲家人生の前半は主に「交響詩」の作曲に特化、後半がオペラに捧げられていること、そして指揮者として社会的名声を獲得していたこと、さらにはナチの時代にもドイツに留まり、戦後裁判にかけられたことなども簡単にお話しました。

ということで、今回のテーマとなる『ツァラトゥストラ』を聴くことになるのですが、少々道草を喰いました。この音楽を一躍有名にした(今回もアンケートをとってみましたが、普段クラシック音楽にも映画にも全く興味がないという方でもこの序奏部に関しては全員が知っていました!恐るべし、です)スタンリー・キューブリック監督作「2001年宇宙の旅」から冒頭部をわずか5分ほど鑑賞しました。

③スタンリー・キューブリック監督「2001年宇宙の旅」~冒頭(DVD)

そして、いよいよ『ツァラトゥストラ』全曲に挑みます。

④交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」作品30
ミシェル・シュヴァルベ(ヴァイオリン)
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1973年)

まずは余計な説明を加えず、全曲を一気に聴きました。この壮大な音楽はカラヤンの独壇場でしょう(30分強が短く感じられたという参加者もいました)。

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第3部
□交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」解剖試聴
休憩をはさみ、シュトラウスがこの音楽に込めた想い、思想、あるいはインスパイアされたニーチェの哲学書について少し・・・。
この難解な書のキーワードは「永劫回帰」と「超人」ですが、シュトラウスの音楽はこの辺りもうまく表現していると思います。そして、「自然」と「人間」の対立が大きなモチーフとなっているのですが、2つの動機が背反しあいながらも最終的には解決に至らないということまで音楽に表現されているところも脱帽ものです(100年以上も前の音楽に人間と自然とは本来共存して生きていかなければならないのだというメッセージが込められているようです)。
ちなみに、僕は「永劫回帰」に関して、「プラスもマイナスも全てを受け容れることが重要だ」と解釈します。真に全てが受け容れられた時(すべてがOKだと思えた時)、過去に対する恨みや未来に対する不安が消えるのだということを言っているのだと思うのです。さらに、「超人」とは、ユニークな存在である自分自身というものを認知、受け容れ、他者の目を気にすることなく「自分らしく」生きることのできる人。それも「自分勝手」ではなく、あくまで他者に意識を向け、他者のために動ける人間を称してニーチェは「超人」と呼んだのではないかと思うのです(ちなみに、ニーチェは、人間関係の軋轢に怯え、受動的に他者と画一的な行動をする現代の一般大衆を「畜群」と罵りました。「畜群」とは凄い言葉です(笑))。

そして、この交響詩を再度じっくりと説明を入れながら聴きました。

⑤交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」作品30
トーマス・ブランディス(ヴァイオリン)
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1983年)

前述の録音から10年を経て、カラヤンが再々録音した音盤。ヴァイオリン・ソロがブランディスに変わっていますが、カラヤンの音楽作りの基本線はほとんど変わりません。テンポ感といい、音調といい10年という時間を経てもほぼ差異がないという点にカラヤンの天才を感じてしまうところです。『ツァラトゥストラ』についてある程度説明を加えた後で聴くとまた印象が違います。有名な序奏部はもちろんのこと、この音楽のもつ醍醐味を堪能していただけたようで良かったです。

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ということで、3時間の講座もあっという間に終了し、例によって懇親会を開きました。楽しかったです。
次回は10月31日(土)、モーツァルト絶頂期(1784年~86年)の音楽を中心に講座を進めてまいります。お楽しみに!