No.003 「天才ブルックナーの改作癖」 2007/6/11

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ある知人の研究によると人間の「脳のシステム」のパターンは大きく分けると2つに大別されるらしい。一つは「Fix型」なるもの、片やもう一つは「Flex 型」と呼ぶらしい。わかりやすく言うと、MacとWindowsのようにOS(オペレーション・システム)の違いが人間の「回路」にも存在するということである。性格の不一致だとか価値観の違いだとかが理由にされ仕事上やプライベートで諸々の問題が起きることがあるが、要はOSが違うわけだから相容れないのは当然なのである。今でこそコンピューターにおいては各々互換性はあるが、人間の「思考回路」に至ってはお互いがお互いを理解し「承認しあう」しかないわけだ。

ちなみに「Fix型」の特長は、「一旦目標を定めたら絶対にぶれない。が、悪く言えば柔軟性に欠けており、融通が利かないというデメリットもある。つまり、目標どおりに事が進まないとストレスを感じる」というもの。一方「Flex型」はといえば、「目標を定めてその通りにいかなくてもストレスがない。柔軟性があるが、きちっと成果を挙げられない、目的目標がぶれるという弱点も持つ」。例えば、彼氏は「Flex型」、彼女は「Fix」型。デートの際、「どこどこのカレーが美味しいので食べに行こう」と決めて出かけたとする。かのカレー屋に向かう途中で美味しそうな「蕎麦屋」を見つけ、彼氏が「蕎麦屋にしよう!」と簡単に当初の予定を変更するのに対し、彼女はもうそれだけでストレス満載で大喧嘩になるということはよくあることだろう。どちらが正しいとか悪いという問題ではない。OSが違うため仕方がないことなのである。とにかく自分の「思考回路」と身近な人の「思考パターン」をしっかりと押さえておき、「理解する」ことが重要なのだ。

前置きが長くなった。
僕が好きな作曲家の一人にアントン・ブルックナーがいる。19世紀オーストリアが生んだ大交響曲作家であり、音楽史の中でもモーツァルトと双璧の突然変異的天才である。彼が残した交響曲はどの部分をとってみても「傑作」揃いであり、何度聴いても飽きない(生前の朝比奈隆が指揮したブルックナーはとてつもない名演ばかりだったことをあらためて懐かしく思う)。ところが、天才ブルックナーも人の子。弱点があった。極端なロリコンだったという性癖についてはプライベートな問題だからここではあえて言及しない。それより仕事上の大いなる問題点-それは、交響曲を書いても他人に否定されたり、受け入れてもらえないとすぐに引っ込め、何度も何度も書き直したということに尽きる。そして否定されて棚上げし、時間をかけて書き直すということを繰り返したのだ。とにかく「自分に自信がない」のである。だから、彼の作品には異稿が多数存在する。演奏するにもいくつものバージョンあり、どの版をとるかは指揮者の考え方に委ねられており、何とも演奏家泣かせの作曲家なのである。ただし、逆に聴くだけの愛好家という観点から言うと、まさに「一粒で何度でも美味しい」ということになるので満更欠点だとも言い切れないのだが・・・。

おそらくブルックナーは「Flex型」だったのだろう。目先で見れば「よくぶれる」のである。しかし、長い目で見ると必ずしもそうではないという見方もできる。彼が生涯を賭けて追求したものはたった一つ。それは「音楽」を通しての「神との合一」であったことは間違いないと思う。最初の交響曲から未完となった第9番まで、形式的には一卵性であり、かつ内容的にも「同じもの」を目指しているのは明らかだ。そういう意味から言えば「目標に向かって邁進した」一途な人間だったのだろう。