No.006 「ブラームス~歓びの音楽」 2007/8/2

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人間というもの誰しも精神的に支えてくれるパートナーが必要である。それは「恋人」に限ったことではなく、友人でも兄弟でもいい。とにかく親身になってコミュニケーションのキャッチ・ボールができる相手の存在がとても重要なのである。
ブラームスは1859年頃、かねてより恋愛の関係にあったアガーテ・フォン・ジーボルト嬢との婚約解消により傷心の状態にあった。その気持ちを自ら癒すかのごとく書かれたのが「弦楽六重奏曲第1番変ロ長調作品18」。ヌーベルバーグのルイ・マル監督作「恋人たち」のテーマ音楽として使われ一躍有名になった第2楽章は、まさにその感傷的な気分が投影されたブラームス青年期の大傑作であるといえる。

先日、「早わかり古典音楽講座」でブラームスを中心に講義をしたのだが、その際この楽章を聴きながらふと思ったことがある。一般的にはアガーテとの「破談による失意」が込められているといわれているが、「一時の悲しみや傷心」が表現されているというよりは立ち直りによる「勇気」や「前向きさ」が感じられ、どうも「新しい愛」がブラームスに芽生え、「歓び」に満ちた非常にポジティブな楽曲だという印象が強いということに気づいたのである。

実際、作曲からまもなく第2楽章のみが「主題と変奏」というタイトルでピアノ独奏用に編曲されクララ・シューマンに捧げられている点は見逃せない事実である。先日のコラムにも書いたが、ヨハネスとクララの間の「肉体関係」については様々な見解があり、有無はわからないのだが、こういう事実から考えてもやはり「有」の方に僕の意見は傾いてしまう。1860年頃、つまりヨハネス27歳、クララ41歳のとき二人の関係は決定的なものになったのではないかと僕なり推測する。

すでにロベルトが亡くなって数年経過しており、決して不倫の関係ではないのだが、ブラームスは手紙を含め一切の証拠を残していない。そのあたり厳格できちっとした性格の彼らしいところである。