先日、イングマール・ベルイマン監督作「サラバンド」を観ていて、J.S.バッハのトリオ・ソナタ第1番変ホ長調BWV525が演奏されるシーンがあり、なぜだかその「楽音」に妙に惹かれたので、ふと音楽のもつ「調性」について考えてみた。例えば、先日コラムにも書いたモーツァルトの歌劇「魔笛」序曲も変ホ長調。そして、ベートーヴェンがそのベートーヴェンらしさを初めて存分に発露した傑作交響曲「英雄」もそう。さらには、ピアノ協奏曲第5番「皇帝」、ブルックナーの第4交響曲、マーラーの第8交響曲など、単なる僕の好みの問題なのかもしれないが、Es-Dur(変ホ長調)の名曲で気になる楽曲はとても多い。
僕自身は音楽の専門教育を受けたわけではないので、音楽理論についての知識はゼロ。ましてや絶対音感も持たないので、「調性」について論じる資格はそもそもない。しかしながら、いわば「感覚的」にEs-Dur(変ホ長調)の楽曲に妙にエネルギーの解放感を感じ、この調性が何か宇宙的な広がりを持つ特別な波長に満たされた性質を持つのではないかと直感的に思ったので、おもむろに筆を執った次第である。
ここのところ、講座でとりあげるモーツァルトについていろいろ調べる機会があった。彼が死の年に作曲した傑作歌劇「魔笛」はフリーメイソンの秘儀に忠実に書かれたものだという。例えば、変ホ長調という「フラット3つ」の調性。そして、登場する3人の侍女、3人の童子など、フリーメイソンが「神秘な数」と定義する数字「3」がふんだんに使われ構成されている。確かに「三位一体」や「三人寄れば文殊の智慧」などという言い回しがあるくらいだから「3」は精神的にとても深い意味をもつ数字なのだろう(記譜上の記号という意味においてはハ短調もフラット3つ、イ長調、嬰へ短調もシャープ3つの調性なので必ずしも変ホ長調だけの特徴ではないのだが・・・)。
少々話題がそれるが、ここで「3」という数字について考えてみよう。「3」は神の数字といわれ、「神の性質」を表すということだ。例えば、安定性を感じさせる三角形。色の三原色。そして、「過去・現在・未来」という時の流れ。何かこの世の全ての事象は原則3つで構成されているように思える。そしてまた、ピタゴラス主義的な見地からだと、「3」は男性的な数字であり、最初の真の奇数、調和の数という意味があるとされている。さらに、占星術では「3」は木星(ジュピター)で、「独立・向上・本能」などの暗示があるそうだ。上記のように突き詰めて考えていくと、「3」は「調和」という意味合いを含んでいる不思議な数字なのだということがわかる。
いずれにせよ、上記の説明は全て後付けである。ゆえに絶対的な根拠は無い。ただ、話をD-Dur(変ホ長調)に戻すと、とても雄大で解放的、魅力的な楽曲がなぜか多く、なぜか魂に直接的に響く惹かれる音楽が多いということは間違いのない事実なのである。モーツァルトが「魔笛」の調性に選んだことやベートーヴェンが転機となる時期に相次いで変ホ長調の傑作を書いていることから考えてもそれは確かである。
しかし、音というもの自体理屈では計りきれない感覚的なものだから、捉え方は千差万別、十人十色。上記はあくまで僕の勝手な解釈。反論含め面白いご意見があったらご教授ください。
追記
ところで、Windows XPの起動時、終了時のSE(効果音)もEs-Dur(変ホ長調)らしい。