先日の講座では、シューマンの名作ピアノ協奏曲イ短調を採り上げた。クラシック音楽愛好家としてはこれほどメロディアスで簡潔、わかりやすい音楽はないと思うのだが、実際のところご参加いただいた方の中には、よくわからない、わかりにくいという意見の方もいらっしゃり、なるほどそんなものかと少々驚いた。とはいえ、この曲を初めて聴いたときのことを振り返ってみると、確かに冒頭のピアノの導入部以外あまりピンと来ず、以降のめり込んで聴きまくった記憶がないから、自分自身ですら当初はそれほど心に響かなかったのだろう。いつの頃からかこのコンチェルトの魅力に気づき、アルゲリッチやハイドシェックの実演を聴くに及んで、これこそまさにシューマンの、いや古今東西のピアノ協奏曲の中で1、2を争う名曲だと評価するようになったことで、すっかり聴き始めの頃の印象を忘れてしまっていた。人間の慣れというのはある意味怖いものだと思う。
いずれにせよ、今後は一層入門者の立場になって考えながら資料を作ったり、講座を進めていったほうがより良いかもとも考えさせられた。ともかく非常に参考になった。
ところで、シューマンのこの協奏曲が「ウルトラセブン」の最終回の印象的な場面でBGMとして使われていることはとても有名な話である。ウルトラ警備隊員であるモロボシ・ダンがアンヌ隊員に向かって自身が宇宙人であることを告白する感動的なシーン・・・。
「アンヌ、僕は……。僕はね……、人間じゃないんだよ!…M78星雲からきた、ウルトラセブンなんだ!」
その直後に、例のピアノ・ソロの前奏を伴った音楽が響き渡る。何とピッタリの音楽か!セブンの最後の戦いのシーンに重ね合わさるように流れるある意味不釣合いなクラシック音楽。しかし、ここはシューマンでなければならなかった。シューマンの人生は常に自分自身との闘いであった。精神不安定でいついかなるときも自分自身を律するために真面目に本気に生き続けたシューマン。恋愛も仕事も腹を据えて向かい続けた男の中の男。ただし、あまりに「遊び=つまりのりしろの部分」のない過酷な闘いだった故、最後は生きることに耐えられなくなり投身自殺を図ってしまうのだが・・・。わずか46年という生涯を怒涛のように駆け抜けたロベルト・シューマンの生き様は、まさにウルトラセブンが自身の身を投げ打って地球のために闘っている姿と重なり合う。
講座終了のあとの懇親会では、皆様の要望にお応えして、この「ウルトラセブン」最終回を鑑賞した。皆涙するほどの感動で、そのお陰で少なくともそこに同席した方々はシューマンのこの音楽に感化されたようで、後日談で、その後何度も繰り返し聴き、少しずつその良さがわかるようになったという話もあるくらい(それにしても、「ウルトラセブン」は決して子ども向けの特撮ものではない。大人が何度繰り返し観ても発見のある名作だと思う)。
言葉を持たない音楽、あるいはクラシック音楽のように長時間で退屈だという印象の強い音楽に関して言うと、ひょっとすると他の何かとの関係・関連で覚えたりするとより近づきやすいのかもしれない。それは好きな映画でも良いだろう。あるいは、その音楽を聴いていた頃の懐かしい思い出でも良い。
そうやって少しでもクラシック音楽好きが増えることを心から願う今日この頃である。
ウルトラセブン、モロボシ・ダンに感謝・・・。