No.012 「雑感~コンサート会場でのマナーについて」 2007/10/17

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先日の*AK* the piano duoのコンサート「春の祭典」は大勢のお客様にご来場いただき盛況のうちに終了した。ひとまずは大成功だったと思っている。ところで、お願いしていたアンケートが数十通ほど還ってきて、様々な意見をいただいた中、ある一人のクラシック音楽愛好者らしき(それも相当の年季が入っているような文面であった)男性が音楽的な内容に対するコメントの他に、当日の聴衆の演奏中のマナーの悪さについて言及し、身内が多数占めるようなコンサートを開催する場合は、事前にマナーについてのアナウンスをしっかり徹底させるよう忠告が書かれていたので、そのことについて僕なりの見解を書こうと思う。

まず、アンケートなのだが、要はプログラムをパラパラとめくる音とか、物を落とす音とかが気になって集中できなかった、というようなことが書かれてあり、なるほどコンサートを催す際に、できるだけ多くの方々に気持ちよく楽しんでいただくためにできる限りの対処はしないといけないということは反省点である。しかしながら、一方で、僕などは実際に当日も後ろの席の方で一聴衆として傾聴しており、そのお客様がおっしゃるほどの「雑音」とは思えなかったので、この方に限ったわけではないが、クラシック・コンサート常連者にはある意味神経質な人たちも多いのでは、と率直に感じたのも確かである。

黙っていてもチケットが完売する世界的に有名な演奏者でない限り、主催者側の身内や友人が観客の中心にならざるを得ず、そういう形で演奏会に来場した方々は必ずしもクラシック音楽のヘヴィー・リスナーではないことが多い。僕も誘った友人から「クラシックのコンサートって初めてなんですが、どういう服装で行けばいいんですか?」とか、「花束って持って入っていいのかしら?」というような所謂クラシック音楽通からしてみたら初歩的だと思える質問をされることが多々ある。しかしながら、どんなことでも初めての体験というのは心配というものがつきもので、お客様の立場に立てば、ドレス・コードについての質問も当然のことだと思うし、演奏中の聴き方や態度について質問があるのも当たり前だと思うので、そういう質問をもらった場合、真面目に一生懸命に聴こうとしていただいている姿勢にこちらとしては逆に感謝をしたくなり、むしろ懇切丁寧に教えてあげようという気になるし、またそうなって然るべきなのではないだろうか。そして、そういう形で来場した友人たちは、いくら身内で初心者といえども最低限のマナーは守っていただけているように思うのである。

そんなことを考えていた矢先、本日付の朝日新聞朝刊で『キレる大人たち』という記事があり、公共の場でも怒りを爆発させる大人が増えてきたことを嘆く内容が書かれてあったので、「これは絶妙なタイミングだ」と思い、ここに考えをまとめてみようと思うに至ったのである。特に、記事中のインタビューで「都内の音楽ホール(「怒り」とは一見無縁で「静寂」が暗黙のルールであるクラシック音楽コンサートの場での話である)でメモをとりながら聴いていた初老の男性に、2列後ろの男性客が文句を言ったのが発端で、ロビーで胸ぐらをつかみ合う喧嘩にまでなった」ということが書かれてあった。

昨今は仕事などのプレッシャーから心に余裕を持てない大人が増えているせいかこの手の喧嘩はどうも多いようである。しかし、他の聴衆に明らかに迷惑をかけるような振る舞いでない限り、多少の雑音を出してしまったり、ちょっと咳をしてしまったり、意図的ではない自然な行為の中での物音などは仕方がないことだし、それこそ音楽に集中し、気にしなければ何でもないことである。

例えば、西洋クラシック音楽の本場であるヨーロッパではコンサート中に隣同士で多少のおしゃべりをしたり、時には飲食などリラックスしながら聴くのは普通にあることで、逆にピリピリと緊張感を強いられるような演奏会は少ないともいえる。そもそも、完全な「静寂」を作ること自体不可能なことなのだから。いわゆるクラシック音楽通は「演奏者や作曲家に対する冒涜だ」とでも思うのだろうが、故意に携帯電話の音を鳴らしたり(そんな人はいないと思うが)、妨害したりするのでなければ、お客様はそれぞれ音楽を楽しむために会場に足を運んでいるわけだから、お互い「その気持ちを汲み合い」、余程の雑音でない限り、そこにいる聴衆の呼吸する音や自然発生音を含めてコンサートの「臨場感」なのだと理解すれば済むことだと僕は思うのである。

また、クラシック音楽のイメージは堅苦しい、難しいというものがいまだに根強い。先日のコンサートでも終了後「クラシックのコンサートは初めて来たのですが、踊りだしたくなって、じっとして聴くことが苦痛だった」という知人もおり、じっと正座して物音一つ立てず聴き入るということは若者にとってはある種不可能なことであり、最低限のマナーを守るならば、そう目くじらを立ててどうのこうのと非難する問題でもないのかもしれないとこの頃は感じるのである。クラシックの新たなファンは「スポーツ観戦感覚」で聴きに来ている若者も多く、一人でも多くの方々にクラシック音楽の素晴らしさを知っていただくためには、マナーの問題一つとってももう少し余裕を持って見極めなければならないと痛感する。