No.032 「2015年を振り返り」 2015/12/23

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あっという間の2015年。
今年も残すところわずかとなった。
時間と空間の芸術を日々堪能しながら、時間とは生命であり、空間もまた生命であることを思う。
それならば、愛する音楽を十分に享受するためにできるだけ実演を聴く機会を持とうと、今年はホール通い30数回(まだまだ足りないのだけれど)。

中で印象に残ったものはワーグナーとリヒャルト・シュトラウス。いずれもオペラの全曲あるいは抜粋であるが、ドイツ・オペラを代表する二大巨頭の作品を演奏会形式であるとはいえ体感できたことは大きな収穫であった。

まずは3月のジョナサン・ノット指揮東京交響楽団のワーグナー「パルジファル」抜粋(3/13ミューザ川崎)
パルジファル役を演じたクリスティアン・エルスナーの堂々たる歌唱もさることながら、やはりノットの悠揚たる中にある繊細な音楽づくりに感動。とはいえ、何より圧巻だったのはクンドリ役のアレックス・ペンダの透明感とそのオーラ!!第2幕は抜粋でありながら第3幕イニシエーションの伏線となる重要な場面の披露であったゆえその意義はなおさらであったと思う。
そして、9月のシルヴァン・カンブルラン指揮読売日本交響楽団による「トリスタンとイゾルデ」全曲(9/13サントリーホール)は演奏会形式だからこその、ワーグナーの音楽の素晴らしさと重要性を十分に認識できた5時間だった。
特に、マルケ王役アッティラ・ユンの重量級の透き通った歌唱、響きに驚嘆、もちろんカンブルランの妖艶で深い解釈に心震えた。
最後に、シャルル・デュトワ指揮NHK交響楽団のリヒャルト・シュトラウス楽劇「サロメ」(12/4NHKホール)
20世紀初頭の音楽界を震撼させたこの問題作も、初演から100年以上経た今となっては古典のひとつであり、こちらも演奏会形式とはいえ、デュトワの精密な棒によりオーケストラの力量とともに最高のパフォーマンスが繰り広げられた2時間だった。もちろんサロメを演じたグン・ブリット・バークミンをはじめとする歌手陣の素晴らしさも言うことなし。

ところで、「サロメ」に影響を受け、いくつかシュトラウスの後期の作品を聴き返していて、あらためて「ダフネ」の素晴らしさを再発見できたことが意外な収穫。わずか1時間半少しの1幕物のこのオペラはヨーゼフ・グレゴールの台本の問題が何かと指摘される作品だが、晩年(円熟)のシュトラウスの手によって紡がれた音楽の素晴らしさは他に比肩するものがないほど。室内楽的な可憐な響きと、登場人物の心情を見事に捉え切る作曲の魔法にあらためて尊敬の念を覚えた。

ほかにも今年はシベリウス・イヤーということもあり、尾高忠明指揮札幌交響楽団による交響曲ツィクルス最終回(2/17サントリーホール)オッコ・カム指揮ラハティ交響楽団(11/27オペラシティ)による交響曲第3番&第4番ほかも凄演であったことをつけ加えておく。

2016年はまた素晴らしい年になるだろう。
また新たな音楽作品に出逢えることへの期待と、素晴らしい時間を過ごせるであろう歓び。
生命とはまさに時間であり、空間である。